病室の中。
斎藤咲子の手のひらが、突然、村上紀文にしっかりと握られた。
しっかりと、というよりも、彼の手のひらの中に彼女の小さな手が包まれただけだった。
実際のところ。
彼には力が入っていなかった。
今の彼には、斎藤咲子の手をしっかりと掴むような力など、まったくなかった。
だからその瞬間。
斎藤咲子は簡単に、痕跡も残さずに手を振り払った。
村上紀文の瞳が僅かに揺れた。
自分でも、どこからそんな勇気が出て、彼女の手を取ったのか分からなかった。
彼女が拒否することは予想していた。
むしろ嫌悪感を示すかもしれないとも。
そうなることは分かっていたのに、それでも手を伸ばしてしまった。
今、極度の眠気に襲われている頭の中で、斎藤咲子が言った二つの「ここ」という言葉が繰り返し響いていた。
家族がここにいる。
彼の胸の中の感情が、少しずつ高まっていった。
斎藤咲子の表情には、確かに嫌悪感が浮かんでいた。
彼女は村上紀文を見つめた。
彼が眠りを装っているのかどうか分からなかったし、彼女が近づいた時に手を取られるとは思いもしなかった。
麻酔が切れきっていないせいで混乱しているのか、それとも手術後の脆弱な状態で本能的に誰かを求めているのか。
どちらにしても、彼女にとっては不快でしかなかった。
彼との距離を保っていたのに、その時、隣のモニターで彼の心拍が上昇していくのが見えた。どんどん速くなっていく。
斎藤咲子は眉をひそめた。
村上紀文の心拍数が全く下がる気配を見せないのを見て、急いで近くのナースコールを押した。「看護師さん、村上紀文の心拍が速くて、ずっと赤信号です。」
「すぐに参ります。」
村上紀文は斎藤咲子の言葉を聞いていた。
実は大丈夫だと彼女に伝えたかった。心拍が上がっているのは、あなたのせいだと...あなたがいるからだと。
しかしその時、一言も口から出てこなかった。
看護師は医師を呼んだ。
医師は緊張した様子で全身を診察し、簡単に状態を確認した。
斎藤咲子は冷ややかに傍らで見守っていた。
しばらくして。
医師が言った。「リラックスしてください。手術は無事に終わり、とても成功しています。緊張する必要も、心配する必要もありません。」