病室の中。
斎藤咲子の手のひらが、突然、村上紀文にしっかりと握られた。
しっかりと、というよりも、彼の手のひらの中に彼女の小さな手が包まれただけだった。
実際のところ。
彼には力が入っていなかった。
今の彼には、斎藤咲子の手をしっかりと掴むような力など、まったくなかった。
だからその瞬間。
斎藤咲子は簡単に、痕跡も残さずに手を振り払った。
村上紀文の瞳が僅かに揺れた。
自分でも、どこからそんな勇気が出て、彼女の手を取ったのか分からなかった。
彼女が拒否することは予想していた。
むしろ嫌悪感を示すかもしれないとも。
そうなることは分かっていたのに、それでも手を伸ばしてしまった。
今、極度の眠気に襲われている頭の中で、斎藤咲子が言った二つの「ここ」という言葉が繰り返し響いていた。