第343章 病院で仕事、対立が激化

病室の中。

斎藤咲子の手のひらが、突然、村上紀文にしっかりと握られた。

しっかりと、というよりも、彼の手のひらの中に彼女の小さな手が包まれただけだった。

実際のところ。

彼には力が入っていなかった。

今の彼には、斎藤咲子の手をしっかりと掴むような力など、まったくなかった。

だからその瞬間。

斎藤咲子は簡単に、痕跡も残さずに手を振り払った。

村上紀文の瞳が僅かに揺れた。

自分でも、どこからそんな勇気が出て、彼女の手を取ったのか分からなかった。

彼女が拒否することは予想していた。

むしろ嫌悪感を示すかもしれないとも。

そうなることは分かっていたのに、それでも手を伸ばしてしまった。

今、極度の眠気に襲われている頭の中で、斎藤咲子が言った二つの「ここ」という言葉が繰り返し響いていた。

家族がここにいる。

彼の胸の中の感情が、少しずつ高まっていった。

斎藤咲子の表情には、確かに嫌悪感が浮かんでいた。

彼女は村上紀文を見つめた。

彼が眠りを装っているのかどうか分からなかったし、彼女が近づいた時に手を取られるとは思いもしなかった。

麻酔が切れきっていないせいで混乱しているのか、それとも手術後の脆弱な状態で本能的に誰かを求めているのか。

どちらにしても、彼女にとっては不快でしかなかった。

彼との距離を保っていたのに、その時、隣のモニターで彼の心拍が上昇していくのが見えた。どんどん速くなっていく。

斎藤咲子は眉をひそめた。

村上紀文の心拍数が全く下がる気配を見せないのを見て、急いで近くのナースコールを押した。「看護師さん、村上紀文の心拍が速くて、ずっと赤信号です。」

「すぐに参ります。」

村上紀文は斎藤咲子の言葉を聞いていた。

実は大丈夫だと彼女に伝えたかった。心拍が上がっているのは、あなたのせいだと...あなたがいるからだと。

しかしその時、一言も口から出てこなかった。

看護師は医師を呼んだ。

医師は緊張した様子で全身を診察し、簡単に状態を確認した。

斎藤咲子は冷ややかに傍らで見守っていた。

しばらくして。

医師が言った。「リラックスしてください。手術は無事に終わり、とても成功しています。緊張する必要も、心配する必要もありません。」