村上紀文は彼女を見つめていた。
斎藤咲子の顔に浮かぶ皮肉な表情を見つめていた。
斎藤グループの機密文書が全部この中に入っているのに、なんて馬鹿なんだろう、村上紀文にパソコンを渡すなんて。
もしかしたら、村上紀文と母親が仕組んだ芝居だったのかもしれない。
わざと彼女にこんな重要なものを村上紀文に渡させて、母子で彼女を陥れようとしているのかもしれない。
村上紀文も斎藤咲子の考えを推し量るのをやめたようだった。
心の中ではすでに察していたけれど。
何も言わなかった、何を言えばいいのかもわからなかった。
北村忠は斎藤咲子がまだ彼のことを好きかもしれない、まだ気にかけているかもしれないと言った。
彼は思った...そんな可能性はほとんどゼロだと。
斎藤咲子は彼を憎んでいるだけだ。