第344章 冬木空が退院(2更)

村上紀文は彼女を見つめていた。

斎藤咲子の顔に浮かぶ皮肉な表情を見つめていた。

斎藤グループの機密文書が全部この中に入っているのに、なんて馬鹿なんだろう、村上紀文にパソコンを渡すなんて。

もしかしたら、村上紀文と母親が仕組んだ芝居だったのかもしれない。

わざと彼女にこんな重要なものを村上紀文に渡させて、母子で彼女を陥れようとしているのかもしれない。

村上紀文も斎藤咲子の考えを推し量るのをやめたようだった。

心の中ではすでに察していたけれど。

何も言わなかった、何を言えばいいのかもわからなかった。

北村忠は斎藤咲子がまだ彼のことを好きかもしれない、まだ気にかけているかもしれないと言った。

彼は思った...そんな可能性はほとんどゼロだと。

斎藤咲子は彼を憎んでいるだけだ。

ただ憎んでいるだけ。

今日彼女が付き添ってくれたのは、心の中の少しの罪悪感と人道的精神からだけだった。

彼という人間とは何の関係もない。

「目が覚めたみたいね、歩けるくらい元気になったなら、もう付き添いは必要ないでしょう」

村上紀文はそんな彼女を見つめていた。

斎藤咲子はそう言い捨てて、踵を返して去っていった。

さっぱりとした態度で。

村上紀文は彼女の後ろ姿を見つめていた。

彼女がそんなに冷たく去っていく後ろ姿を。

長い間。

彼は振り返り、一歩一歩ベッドに戻った。

彼は少し息を切らしていた。

激しい呼吸で気を失ってしまうのが怖かった。

実は、まだ死にたくなかった。

彼も人間だ。

人は生きていれば、生きたいという欲望がある。

彼は懸命に手を伸ばし、ナースコールを取った。

「具合が悪いので、医者を呼んでください...」

彼はベッドに重く寄りかかった。

頭が重く足が軽い、麻酔が切れて傷が痛み、先ほどの動きで今は耐えられないほどの痛みになっていた。

医師と看護師が急いで病室に入ってきて、ベッドの頭部に座っている村上紀文を見て驚いた様子だった。

「どうして急に起き上がったんですか、動いてはいけないと言ったでしょう?命が惜しくないんですか!」医師は叱責した、「家族は?家族はどこにいるんですか?」

村上紀文の体を診察しながら尋ねた。

家族はいない。

斎藤咲子は彼の家族ではない。