北村忠は村上紀文の病室に入った。
村上紀文の事故を知ってから、何度か見舞いに来ていた。
毎回会えたのは村上紀文の母親だけで、斎藤咲子には一度も会えなかった。
ある時、医師が村上紀文の救命処置をしているところに遭遇し、その様子に心を動かされた。何度も斎藤咲子に連絡しようと思ったが、村上紀文が本当に死んでしまうかもしれないと恐れていた。しかし、そのような時は連絡するのではなく、斎藤咲子が自ら来るべきだと固く信じていた。
村上紀文は幸運にも死を免れた。
しかし今の状態は、死んでいるのとあまり変わらないかもしれない。
先ほど、ドアの外で母親が彼に話しかけているのを聞いた。
心の中の思いをどう表現すればいいのか分からなかった。
ただ、村上紀文のような人間が生きているのは、本当に悲しいことだと感じた。
以前からこの人は我慢強く、何でも心の中に抱え込んでいると思っていたが、今になって分かった。我慢する以外に何ができただろうか?
この世界で、おそらく誰一人として本当に彼のことを考えてくれる人はいないだろう。
今まで生きてこられただけでも大変なことだったのに、これ以上何を求められるというのか。
「今日の調子はどう?」と彼は声をかけた。
村上紀文が話せないことを知りながらも、自然と声をかけてしまった。
村上紀文はただじっと彼を見つめていた。
「昨日より顔色がよくなったみたいだね」と北村忠は独り言のように言った。
村上紀文は軽く頷いた。
北村忠はベッドの横に座り、さらに続けた。「この状態で医師は約一ヶ月の入院が必要だと言っていた。暇を持て余していたから警察署に行って、君の事件について聞いてみたんだ。今のところ斎藤咲子はこの事故について警察にあまり話していない。思い出したくないという理由で沈黙を選んでいるようだ。警察は今のところ、君の殺人事件をどう分類すべきか判断できていない。事件発生時、現場にいたのは君と斎藤咲子だけだから、彼女の証言が非常に重要なんだ。はっきり言えば、君の罪の有無は斎藤咲子次第というわけだ。」
村上紀文は何の音も立てず、感情すら見せなかった。
北村忠は付け加えた。「もしかすると、君の母親次第かもしれない。」
しかし明らかに、二人とも村上紀文のことを考えてはいないだろう。