北村忠は急いで車を走らせ、狂ったように冬木心のマンションへと向かった。
路上駐車が可能かどうかなど気にもせず、アクセルを踏んで急停車し、車のドアを開けて中へ駆け込んだ。
彼は激しく冬木心の部屋のインターホンを押し続けた。
部屋の中からは何の反応もない。
すぐに電話を取り出して掛けるが、電源が切られたままだった。
彼は歯を食いしばった。
先ほど彼に電話をかけてきた相手にかけ直すが、そちらも電源が切られていた。
北村忠の表情は険しかった。
彼は突然、壁を強く殴りつけた。大きな音が響き、手の甲が真っ赤に腫れ上がった。
一体誰だ?!
一体誰が冬木心を誘拐したんだ?
こんな時に、こんな重要な時期に。
彼は歯を食いしばった。
警察に通報すべきか?
もし通報して...人質が殺されたらどうする?
北村忠はそんな光景を想像することすらできなかった。
心臓の鼓動は加速し続け、額から流れる汗が止まらなかった。
今、どこへ行けばいいのか、何をすべきなのかさえわからない。
ただ冬木心の玄関前に立ち尽くし、これが夢であってほしいと願った。先ほどの電話は悪質な冗談で、すぐに冬木心が帰ってくる、すぐに冬木心が嫌そうな顔で現れる...
突然。
北村忠の携帯が鳴った。
その瞬間、北村忠の全身は緊張で固まり、わずかな音にも思わず体が震えた。
自分を抑制しながら、急いでその見知らぬ番号からの着信に出た。
「冬木心が本当に俺の手の中にいるか確かめたいのか?あちこち走り回る必要はないぞ!お前は冬木心のどこが好きなんだ?指か、足の指か、目か、それとも耳か?好きな部分を言ってくれれば、それをお前にプレゼントしてやる」相手の冷たい声が、北村忠の耳に響き渡った。
北村忠は拳を強く握りしめ、必死に自制しながら言った。「1億円だな。時間をくれ、金を用意する」
「24時間、2日間やる。今は10月11日午後5時50分だ。10月13日午後5時50分までに十分な金がなければ、取引は終わりだ。冬木心は返してやるが、その時彼女が話せるかどうかは保証できないがな」
「わかった」北村忠はすぐに答えた。