斎藤グループとの取引が成立した。
北村忠は車に乗って帰路についた。
ここ数日で最も早い退社時間だろう。実はまだ多くの仕事が残っているが、この瞬間はもう戻りたくなかった。
何か用事があっても明日解決すればいい。
彼は後部座席に座り、シートに寄りかかった。
加賀玲奈は助手席に座り、運転手は真剣に運転していた。
車の走りは安定していた。
北村忠は揺られているうちに眠りについた。
北村邸に到着した時も、北村忠はまだ眠っていた。
加賀玲奈は北村忠を呼んだ。
北村忠はゆっくりと目を開け、目覚めたばかりの掠れた声で「着いたのか?」と言った。
「社長、お宅に着きました」と加賀玲奈は恭しく言った。
北村忠は軽く頷いた。
彼は車のドアを開けて降り、「お疲れ様、気をつけて帰ってくれ」と言った。
「はい」
北村忠は邸内に入った。
加賀玲奈は社長の後ろ姿を見つめていた。
誰が知っただろう、かつての不真面目でふまじめな男が、今では自分の事業のためにこれほど懸命に働くようになるとは。
彼女は最初、彼が疲れを感じないと思っていた。印象では、いつでもどこでも精力的な人だった。先ほど椅子に寄りかかってすぐに眠ってしまったのを見なければ、本当に単なる気まぐれだと思っていたかもしれない。
今になって彼女は本当に実感した。彼女の社長は、本気で努力しているのだと!そして彼女は尊敬の念を抱き始めていた。
北村忠は実際、他人の目など気にしていなかった。
他人の目を気にしていたら、彼は一生冬木空についていくことはなかっただろう。
冬木空という男の強大な魅力の下で、彼はとっくに粉々にされていた。彼の前で無理する必要などなかった。
結局のところ、彼はただ気ままに生きることが好きな人間で、この性格は実は母親に似ていた。
彼には母親に似た隠れた性格が多くあった。
例えば……誰かを好きになること。
一途に誰かを好きになること。
ただ、彼は母親よりも表現できるだけだった。
つまるところ、母親は父親のことが好きだった。最初から最後まで好きで、そしてこれほど長い間ずっと好きだった。でなければ……どうして一人の男についてこれほど長い間一緒にいられただろうか。でなければ……お互いに感情がないのにこれほど長く続くはずがない。でなければ……どうしてこんなに早く許せただろうか。