「既婚者なら、自分の家族を大切にするべきだ!」と冬木郷は真剣な表情で言った。
「じゃあ、姉さんを助けるの?」と北村忠が尋ねた。
「いいえ」と冬木郷は言った。「もし私が姉さんの立場なら、冬木家に戻って謝るわ。私たち冬木家の力があれば、木村文俊なんて簡単に対処できるはずよ!」
「冬木心は戻ってくるかな?」
「それは彼女次第だね」と冬木郷は無関心そうに言った。「姉さんがこの道を選んだ以上、覚悟はできているはずよ。心配しないで、その時間があるなら北村系の経営に集中したほうがいいわ。せっかく成果を出したのに、また誰かに追い抜かれないようにね。井上明親子をどうやって打ち負かすか、私は楽しみにしているわ」
北村忠は携帯電話を強く握りしめながら言った。「今回は、必ず介入する」
冬木郷は本当に呆れた様子だった。
「どうあれ、この件は私が原因だ。木村文俊は姉さんを狙っているんじゃない、私を狙っているんだ」
「狙われていると分かっているのに行くなんて、バカじゃないの?」と冬木郷は彼を非難した。
「でも、姉さんに負担をかけるわけにはいかない」
「北村忠、あなた絶対後悔するわよ」と冬木郷は確信を持って言った。
「しない」
冬木心に費やした多くの感情に、彼は一度も後悔したことがなかった。
今回は客観的な理由も絡んでいて、なおさら後悔する理由はなかった。
「信じないなら、見ていればいいわ」と冬木郷は首を振って、電話を切った。
北村忠も電話を切った。
彼は直ちに北村系を出た。
加賀玲奈は、この半月で初めて社長がこんなに早く退社するのを見た。
うん。
きっと冬木心のせいだ。彼女もニュースを見たから。
はぁ。
加賀玲奈はため息をついた。
どうも社長はまだ冬木心を忘れられないようだ。木村文俊が警告したのに、冬木心を信じないように言ったのに、なぜ信じないのか?冬木心は彼の結婚生活を壊そうとしているだけなのに!
奥様が知ったら、怒り死にするんじゃないかしら!
道明寺華は怒り死にはしない。
ただ、少し悲しかった。
ただ静かに悲しんでいるだけだった。
北村忠は運転しながら冬木心に電話をかけた。
相手の電話は電源が切れていた。
北村忠は車を冬木心のスタジオまで走らせた。
スタジオの入り口には大勢の人が集まっていた。
北村忠は驚いた。