道明寺華は北村忠から電話がかかってくるとは思っていなかったし、彼の電話に出るつもりもなかった。
彼女は虎を寝かしつけたばかりで、電話が鳴った時、誰からかも確認せず、虎の睡眠を邪魔しないように即座に電話に出た。
すると向こうから北村忠の泥酔した声が聞こえてきた。「白川心、迎えに来てくれ。酔っ払っちまった……」
彼女は電話を切ろうと思った。
でも次の瞬間、「私は冬木心じゃありません。道明寺華です」と告げた。
酔っ払っていた北村忠はその瞬間、急に正気に戻ったかのようだった。
彼は突然姿勢を正し、そのまま携帯電話を持っていた。
道明寺華は彼が聞き取れなかったのだろうと思った。やはり北村忠は酔っていたから。
彼女は繰り返して言った。「北村忠、私は冬木心じゃありません。道明寺華です。間違い電話です」