第586章 大団円:冬木空、男の子だよ

道明寺華は北村邸を去った。

北村忠は虎を抱きながら、相変わらずとても落ち着いた様子を見せていた。

広橋香織は近寄り、北村忠の前に座った。

北村忠は広橋香織の視線に少し居心地が悪くなった。

彼は顔を上げて、「母さん、話があるなら言ってよ。そんな不気味な目で見られると緊張するよ」と言った。

「何を緊張することがあるの?後ろめたいことでもあるの?」

「何が後ろめたいっていうんだ!」北村忠は平然とした顔をした。

「道明寺華のことを好きなくせに、無関心なふりをしているのが後ろめたいんでしょ?!」広橋香織は意図的に彼を刺激した。

北村忠は黙り込んだ。

どうせ母親には隠しきれないのだから。

「急に悟ったようになったのが不思議でならないわ」

「彼女は幸せそうじゃないか」北村忠は呟いた。「人は察する心を持たないとね」

「この前ニュースを見たわ」広橋香織は突然話題を変えた。

北村忠は母親が何を言い出すのか分からなかった。

でも、どんな話も聞きたくないような気がした。

「Joeが道明寺華にプロポーズしたそうよ」

やっぱり聞きたくない話だった。

でも、その瞬間も特に反応は示さなかった。

「Joeのチームメイトがツイートして、それがメディアに広まったの。見なかった?」広橋香織は尋ねた。

見ていない。

でもニュースの速報は見た。

見出しは「Joe神、ついに道明寺華にプロポーズ!」だった。

それ以上は見る気にならなかった。

広橋香織は一目で、この男が見る勇気がなかったことを見抜いた。

彼女は言った。「華は承諾したと思う?」

「もう僕には関係のないことだと思います」北村忠は断固として言った。

華との関係が終わった以上、彼女の恋愛に関心を持つ必要はない。

「華は断ったわよ」広橋香織は一字一句はっきりと言った。

北村忠の体が強張った。

そんな可能性は考えもしなかった。

道明寺華の性格からして、誰かを傷つけることは選ばないと思っていた。

特にJoeが彼女にあれほど尽くしているのだから、感動だけでも一生を共にするはずだと。

彼は信じられない様子で母親を見つめた。

「どう?心が揺らいだ?」広橋香織は眉を上げた。

北村忠は目を伏せた。

違う。

たった一瞬アドレナリンが分泌されただけで、今はもう何もない。

彼は冷静を装った。