道明寺華は北村邸を去った。
北村忠は虎を抱きながら、相変わらずとても落ち着いた様子を見せていた。
広橋香織は近寄り、北村忠の前に座った。
北村忠は広橋香織の視線に少し居心地が悪くなった。
彼は顔を上げて、「母さん、話があるなら言ってよ。そんな不気味な目で見られると緊張するよ」と言った。
「何を緊張することがあるの?後ろめたいことでもあるの?」
「何が後ろめたいっていうんだ!」北村忠は平然とした顔をした。
「道明寺華のことを好きなくせに、無関心なふりをしているのが後ろめたいんでしょ?!」広橋香織は意図的に彼を刺激した。
北村忠は黙り込んだ。
どうせ母親には隠しきれないのだから。
「急に悟ったようになったのが不思議でならないわ」
「彼女は幸せそうじゃないか」北村忠は呟いた。「人は察する心を持たないとね」