村上紀文は生鮮食品を買って帰った。
彼は帰宅前に、わざと母親に階下へ特製醤油を買いに行かせた。夜には母親のために醤油漬け鴨を作ると言った。
母親が階下に行ったのを確認してから、家に戻り、汚れた服を脱いで、体の汚れを簡単に洗い流し、別の清潔な服に着替えて出てきた。その時には、母親はすでに戻っていた。
母親は村上紀文の体の異常に気付かず、彼がキッチンに入っていくのを見ていた。
キッチンに入りながら、スマートフォンで料理の作り方を調べていた。
渡辺菖蒲は村上紀文の傍らで付き添っていたが、ただ付き添っているだけで、手伝おうとはせず、村上紀文が少し不慣れな様子で食事の準備をするのを見ていた。
実際、村上紀文は料理をしたことがなかった。
ただ、どんなことも、心を込めて学べば、そう難しくはないはずだと思っていた。
ネットのレシピに従って、今夜の夕食を作り上げた。
実際の味は、自分が想像していたよりも良かった。
醤油漬け鴨は、渡辺菖蒲が4分の3ほど食べ、村上紀文はほんの少しだけ食べた。
正確に言えば、彼は何を食べてもほんの少しだけだった。
刑務所に入ってからは、基本的にあまり食べられなくなっていた。毎日少し食べるだけで十分で、特別お腹が空いたり、自ら進んで食べたいと思うことはなかった。
母親が美味しそうに食べているのを見ていた。
食べながら母親は言った。「紀文、お母さん、こんなに美味しい料理を食べるのは久しぶりよ。心ゆくまで肉を食べるのも久しぶり。」
村上紀文は唇を軽く噛んだ。
渡辺菖蒲は言った。「本当に、私はこんな貧しい生活を一生送るのかと思っていたわ。あなたが出所してくれて良かった。これからはあなたを頼りにするわ...」
話しているうちに、目が潤んできた。
村上紀文は慰めるように言った。「これからは良くなっていきますよ。」
「わかってる、わかってる。」渡辺菖蒲は涙を拭いながら、突然思い出したように聞いた。「紀文、今日の仕事探しはどうだった?」
「まあまあです。」村上紀文は淡々と答えた。
「安定した仕事は見つかった?」
「まずは試用期間として実習からです。」
「給料はどう?」
「実習期間中は20万円くらいです。」
「実習後は40万円くらいになるでしょう。」
「そんなところです。」村上紀文は頷いた。