番外017 あの夜、あなたが私を痛めつけたことを知っていますか

翌日の早朝。

村上紀文は目を開けた。

斎藤咲子はまだ眠っていた。

彼女は寝ている時とても静かだった。

暴れることもなく、ただ丸くなって、彼の腕の中に寄り添っていた。

彼はそのまま彼女を見つめていた。

彼女の穏やかな寝顔を見つめていた。

彼は実際、過去の多くのことを思い出していた。

かつての、あの素晴らしい斎藤咲子、かつての彼のそばにいて、彼を見るとすぐに甘く微笑んでいた斎藤咲子。

思い出すたびに胸が痛んだ。

胸が痛むとき、彼は自分に言い聞かせた、もう斎藤咲子に近づくべきではないと、自分にはその資格がないのだと。

しかし今この瞬間。

この瞬間、彼はまた彼女とこんなに近い距離で一緒にいた。

「起きたなら朝ごはん作ってよ」斎藤咲子が突然口を開いた。

目を開けることなく、少しの物音でも彼女を目覚めさせるようだった。

「うん」村上紀文はうなずいた。

彼は布団をめくり、立ち去った。

斎藤咲子は目を開け、村上紀文の背中を見つめた。

彼女も実際、なぜ村上紀文を引っ越させて一緒に住むことにしたのか、混乱していた。

彼女の世話をする人を見つけるのは難しくなかったはずなのに、なぜ村上紀文でなければならなかったのか?

おそらく。

それは一時の衝動だったのだろう。

おそらく。

しばらくしたら、彼に出て行ってもらうことになるだろう。

彼女は目を閉じ、あまり考えないようにした。彼女は体を反転させ、もう少し眠ることにした。

村上紀文は朝食を作り終えた。

彼は部屋に入り、斎藤咲子を呼んだ。

斎藤咲子はちょうど服を着替えているところだった。

村上紀文はそのシーンに出くわしてしまった。

二人は目が合った。

村上紀文ののどが動いた。「朝ごはんを食べに来てと呼びに来たんだ」

「わかったわ」

しかし村上紀文はまだ動かなかった。

「いつまで見てるつもり?」斎藤咲子は尋ねた。

村上紀文は背を向けた。「すまない」

斎藤咲子は服を着続けた。

彼女の錯覚かもしれないが、彼女に背を向けている村上紀文の耳が赤くなっているのが見えた。

実際、お互いの体はよく知っているはずだった。

彼女にはわからなかったが、この瞬間、おそらく村上紀文だけでなく、彼女自身も冷静を装っていても、少し気まずさを感じていた。