翌日の早朝。
村上紀文は目を開けた。
斎藤咲子はまだ眠っていた。
彼女は寝ている時とても静かだった。
暴れることもなく、ただ丸くなって、彼の腕の中に寄り添っていた。
彼はそのまま彼女を見つめていた。
彼女の穏やかな寝顔を見つめていた。
彼は実際、過去の多くのことを思い出していた。
かつての、あの素晴らしい斎藤咲子、かつての彼のそばにいて、彼を見るとすぐに甘く微笑んでいた斎藤咲子。
思い出すたびに胸が痛んだ。
胸が痛むとき、彼は自分に言い聞かせた、もう斎藤咲子に近づくべきではないと、自分にはその資格がないのだと。
しかし今この瞬間。
この瞬間、彼はまた彼女とこんなに近い距離で一緒にいた。
「起きたなら朝ごはん作ってよ」斎藤咲子が突然口を開いた。
目を開けることなく、少しの物音でも彼女を目覚めさせるようだった。