番外016 初めて抱き合って眠る

「わかったわ。」渡辺菖蒲は承諾した。

今や彼女も本当に貧乏に疲れ果てていた。

もう二度と食事さえ満足に取れないような日々を送りたくなかった。

村上紀文は言った、「ちょうど会社から手当が前払いされたから、今日新しい部屋を見に行こう。」

「つまり、引っ越せるってこと?」渡辺菖蒲はとても興奮した。

ようやくこんなボロ場所から出られる、彼女は本当にここにうんざりしていた。

「うん、もっといい部屋を見に行こう。」

「紀文、ママはあなたを育てて間違いなかったわ。あなたには将来性があるって分かってたのよ。」渡辺菖蒲は非常に興奮して、「ちょっと待ってて、すぐに服を着替えて部屋を見に行きましょう。」

「いいよ。」

村上紀文はそのように興奮する渡辺菖蒲の姿を見つめていた。

彼は思った、この一生をこうして彼女と共に過ごそう。

渡辺菖蒲は素早く服を着替え、村上紀文と一緒に東京へ部屋を見に行った。

彼らはかなり良い住宅地を選んだ。高級住宅とは比べられないが、以前住んでいた場所よりは数十倍良く、部屋も1LDKから2LDKになり、これで村上紀文も少なくとも自分の寝室を持てるようになった。

部屋を借りた後、村上紀文は渡辺菖蒲と一緒に多くの家具や生活用品を買いに行った。

丸一日かかった。

必要なものをすべて買い、引っ越すべきものをすべて運び、仕事も辞めた。実際、契約書にサインする必要のない仕事ばかりだったので、辞めるのは簡単だった。

すべてを終えて、その日の夜に二人は一緒に引っ越した。

「明日もう行くの?」渡辺菖蒲はまだ少し名残惜しそうだった。

「うん。」村上紀文はうなずいた。

「はぁ、ママはあなたにこんな部屋でもう少し長く過ごしてほしかったわ。」

「実際、会社が用意してくれた部屋もとても良いよ。」

本当に良かった。

斎藤咲子が住んでいる場所は、ここよりずっと良かった。

おそらく東京で最も豪華なマンションだろう。

「そう。とにかく頻繁に帰ってきて、頻繁に電話してね。」

「うん。」

渡辺菖蒲はさらに村上紀文を引き止めて多くのことを話した。

二人はようやくそれぞれ自分の寝室に戻った。

村上紀文はベッドに横たわったが、実際は不眠だった。

かつての不眠は忙しい仕事のおかげで徐々に改善されていたが、今はまた不眠の状態に戻ったようだ。