番外083 小公主誕生(三更)

斎藤咲子は分娩室に運ばれた。

分娩室に入れられたその瞬間、彼女はふと振り返った。

振り返ったその瞬間、村上紀文の視線が彼女を見つめ続け、涙で目が潤んでいるのが見えた。

斎藤咲子は振り返った。

振り返ったその瞬間。

思わず涙がこぼれ落ちた。

彼女は本当に分からなかった、この子の誕生が本当に救えるのかどうか、彼女のかつての...孤独だった前半生を。

救えるのかどうか...彼女の粉々になった恋を。

村上紀文は外で待っていた。

分娩室の中がどうなっているのか分からなかった。

彼は何の音も聞こえなかった。

ただ廊下に座り、体を硬直させたまま座り続けていた。

その時、電話が突然鳴った。

村上紀文は着信を見て、電話に出た。「鈴木隼人だ。」

「斎藤咲子は君と一緒にいるのか?」

「彼女は出産中だ。」

「こんなに早く?」鈴木隼人はその瞬間、突然緊張した。

「今入ったところだ。」

「すぐに行く。」

「うん。」

村上紀文は電話を切り、また不安そうに待ち続けた。

どれくらい待ったか分からない。

鈴木隼人が急いでやって来た。

彼は尋ねた、「どうだ?」

「分からない、まだ中にいる。」

「どうして突然始まったんだ。」

「昨日から出血があった。今日から腹痛が始まった。」

「大丈夫だよね?」鈴木隼人は尋ねた。

村上紀文は鈴木隼人を見つめた。

「いや、絶対に大丈夫だ。」鈴木隼人は急いで言い直した。

彼は村上紀文が今、爆発しそうなほど緊張しているように感じた。

二人の男性は分娩室の前で待っていた。

3時間が経過。

中からは何の反応もなかった。

6時間が経過。

中から微かな音、斎藤咲子の叫び声が聞こえた。

村上紀文は落ち着かなくなった。

彼は立ち上がり、廊下を行ったり来たりし始めた。

鈴木隼人も落ち着かなくなった。

彼は喫煙所に行って数本タバコを吸った。

8時間が経過。

斎藤咲子の叫び声はますます明らかになった。

村上紀文は分娩室のドアの前に立ち、動かなかった。

10時間が経過。

斎藤咲子の声が逆に聞こえなくなった。

村上紀文はドアをじっと見つめていた。

突然声が聞こえなくなったことに明らかに驚いていた。