斎藤咲子は村上紀文の手を引いていた。
二人一緒にショッピングモールを出た。
歩いていくうちに。
斎藤咲子は何か違和感を覚えたようだった。
彼女は突然村上紀文の手を離した。
村上紀文も特に何も言わなかった。
斎藤咲子は相変わらず前を歩いていた。
村上紀文は相変わらず彼女の後ろについていた。
歩いていくうちに。
突然目の前に小さな子供が飛び出してきた。その子は走るのが速く、直接斎藤咲子の方へ突進してきた。
村上紀文は素早く斎藤咲子を抱きかかえ、彼女の前に立ちはだかった。
その小さな子供は勢いよく村上紀文の太ももにぶつかり、地面に座り込んでしまった。
後ろから追いかけてきた母親が急いで駆け寄り、自分の息子を抱き上げ、非常に申し訳なさそうに言った。「すみません、本当にすみません。この子はいたずら好きで、しっかりしつけます。」
「大丈夫です。次から気をつければいいですよ。」
「早く謝りなさい。」母親はすぐに小さな子供に少し厳しく言った。
小さな子供は少し不満そうだったが、それでもしつけの良さを見せて言った。「おばさん、お兄さん、ごめんなさい。」
その言葉が出た瞬間、皆が気まずくなった。
男の子のお母さんも少し気まずそうだった。「何のおばさんお兄さんよ、おばさんおじさんでしょ。」
「あ、おばさんおじさん、ごめんなさい。」
「うん。」村上紀文は軽く頷いた。
頷いた瞬間、隠しきれない笑みがこぼれた。
男の子のお母さんはさらに何度か謝罪の言葉を述べてから、男の子を抱いて立ち去った。
彼らが去った後、斎藤咲子も村上紀文を押しのけた。
村上紀文は彼女の後ろについて歩き、明らかに彼女の機嫌が悪いことを感じ取った。
二人は車に乗り込んだ。
村上紀文は運転し、相変わらずゆっくりだった。
しかし気分は良さそうだった。
斎藤咲子は村上紀文の様子を見て、特に表情は変わらないものの、どう見ても得意げな顔に見えた。
彼女は言った。「何を得意になってるの?」
「ん?」村上紀文はバックミラー越しに彼女を一瞥した。
斎藤咲子は黙り込んだ。
「さっきの男の子が僕をお兄さん、君をおばさんと呼んだことについて言ってるの?」村上紀文は尋ねた。
斎藤咲子の表情はさらに悪くなった。