夫の権利を行使する

こんな時でも円香が笑えるなんて、侑樹は思いもよらなかった。この二年間会わなかった間に、彼女はますます厚かましくなったのだろうか、それとも…彼女は最初から彼に本性を見せなかったのだろうか。

何かを思い出したのか、侑樹の瞳には急に殺気が湧き上がった。「何が可笑しい？」

「江川社長、こんなことをする必要がありません」

円香の視線は少しもぶれず、目はもう澄み切っていた。先ほど傷ついた繊細さはまるで幻だったかのようだ。その口調は丁寧で、まるで見知らぬ人に対するかのようで、一切の感情を含まなかった。「あの件は事故なだけだと申し上げました。その件を盾に君に何かを要求するつもりはありません。ウソをでっちあげるなんて、本当に余計なことです！」

「ふん」侑樹はまるで冗談を聞いているかように笑った。「円香、君が信じられると思うのか？」

「二年前に、二度と俺の前に現れないと言っておきながら、君は結局俺のベッドに現れた。この件はただの事故だと言っておきながら、それがすぐ記事になって世に出回った。この縁談がなければ、恐らく今頃君と親御さんはもう記者たちを連れて江川家に来て、無理やり君と結婚させたんだろうな！本当に計算高いな！」

円香は口を開いたが、結局何も言わなかった。

侑樹は彼女を信じていないから、説明しても無駄で、むしろ更に軽蔑されるだけだろう。

元々今回結婚に合意したのも、別の考えがあったからだった。

新婚の夫に会ったら、彼に取引を持ちかけるつもりだった。名医を探して、彼の顔のケガと体の障害を治療する手助けができる。治療が終われば、彼は好きな女性と結婚できる。そうすれば彼らの結婚は無かったことにできて、彼女も自由になれるはずだった。

しかし新婚の夫が侑樹だと分かった以上、このプランは不可能となった。

突然計画を狂わせられ、目の前の状況にどう対処すべきか思いつかなかった。

円香が長い間黙り込んだのは、侑樹にとっては彼の言葉を認めたも同然だった。彼は気付かれないほどの自嘲的な笑みを浮かべた。

やはりこの女に期待など持ってはいけない。少しでも彼女に同情すると、現実に容赦なくを一撃を食らわせられる。