第47章 彼は電話に出られない

しかし、フロントに着くと、フロントの女性に止められた。彼女は総統スイートの宿泊客ではないため、上がるにはスイートの所有者の許可が必要だった。

昨日は安藤秘書が直接彼女を連れて行ったため、フロントの女性は彼女のことを知らなかった。

園田円香は仕方なく携帯を取り出し、画面の上で数秒躊躇した後、江口侑樹に電話をかけた。

染野早紀の言葉に、心の中に僅かな期待が芽生えた。この2年間、彼女は江口侑樹に公の場で婚約を破棄された痛みから本当に抜け出すことができず、その棘が常にそこにあった。

時々彼女を刺すように痛むが、抜くことはできない。

おそらく、この問題に真正面から向き合ってこそ、本当の解放が得られるのだろう......

プルルルという音が耳元で鳴り、園田円香の心臓は徐々に早くなった。どんな答えが返ってくるのか、2年前と同じなのか、それとも何か誤解があったのか、分からなかった。

短い時間の間に、彼女の頭の中の思考は千転回転し、混乱していた。

ついに、向こうが電話に出た。その瞬間、彼女の呼吸は止まった。

「もしもし」電話の向こうから聞こえたのは、江口侑樹の馴染みの低く心地よい声ではなく、甘い女性の声だった。

「こんにちは、どちら様でしょうか?」

園田円香は固まった。最初は間違い電話かと思い、耳元の携帯を下ろして、かけた番号を確認した。

この11桁の番号は、彼女が暗記していて、逆から言うこともできるほど、間違えるはずがない。

確かに江口侑樹の携帯だった。

でも、なぜ...女性が電話に出たのか?

園田円香の声が聞こえないため、その甘い女性の声は再び困惑した様子で言った:「どちら様でしょうか?江川社長をお探しですか?江川社長は今、着替え中で、ちょっと...」

園田円香はそれ以上聞かずに、すぐに電話を切った。

心の中の衝動、混乱、期待、そしてあの馬鹿げた願望は、すべて灰燼と化した。彼女はホテルのロビーの真ん中に呆然と立ち、周りの人々は遠ざかり、ただ孤独な、滑稽な自分だけが残された。

江口侑樹の専用スイートには、彼の側近か、彼の許可を得た人しか上がれない。