第38章 幕が上がる

その言葉に、安藤秘書は一瞬戸惑ってしまった。彼は林田茜が寵愛を失ったと思い込んでいたのに、たった一本の電話で、社長の心が変わってしまったのだろうか？

社長の心は、本当に海の底の針のように掴みどころがないものだ！

心の中で文句を言いながらも、安藤秘書は忠実に答えた。「はい、江川社長。すぐに手配いたします。」

…

銀婚式のパーティーは林田家で開催され、豪華絢爛な装飾が施されていた。

林田氏夫妻は結婚以来、外部に対して常に仲睦まじい夫婦の模範として知られており、業界で彼らの名前が出るたびに、羨望と嫉妬の的となっていた。

新郎新婦が結婚する際には、彼らに証人を依頼することが多く、林田氏夫妻のように末永く愛し合い、生涯を共にする夫婦になれることを願っていた。

今日の林田夫人は気品と優雅さを漂わせ、ドレスは特注の一点物で、世界に一着しかないものだった。林田茜も同様にプリンセスのように装い、髪を上げて金色の小さな王冠をつけ、その美しさは誰もが振り返るほどだった。

林田氏の母娘が腕を組んで階段を降りてくると、人々の視線を集め、賞賛の声が次々と上がった。

林田茜は褒められて有頂天になり、これこそが家族の力が彼女にもたらした資本と自信だと感じていた。いつでも、彼女の周りには人が絶えることがなかった。

園田円香のような没落令嬢が、今では取るに足らない男と結婚して、自分の指一本にも及ばないと思っていた。

そして、今日が過ぎれば...彼女は江口侑樹の妻となり、江川家の真の女主人となる。その時には、必ず園田円香を地に這いつくばらせ、自分の足を舐めさせてやる！

今日、園田円香を招待した理由の一つは、彼女に自分が出世する様子を目の当たりにさせ、愚かな妄想を断ち切らせるためでもあった！

そう考えると、彼女の顔にはさらに得意げな笑みが浮かんだ。

思わず群衆を見渡すと、園田円香が既に来ているのが見えた。彼女は唇を歪め、仲の良い女友達を何人か呼び寄せ、一緒に彼女の方へ向かった。

園田円香は完全に包囲されたが、彼女の表情には動揺の色は見られず、淡々と彼女たちを見つめていた。

「円香、来てくれたのね」林田茜は明るい笑顔を見せた。「前に私たちの間に誤解があって、来てくれないんじゃないかと心配してたの。でも、来てくれて安心したわ」