第66章 危機一髪

幸い、黒田時久は細かいことに気を配る人ではないので、慎重に振る舞えば、誤魔化せるはずだった。

園田円香は手を上げて、耳元に垂れた髪をかき上げ、声を落として、わざと可愛らしく笑いながら言った。「黒田さん、冗談でしょう。私なんかがお会いできるはずがありません。今日が初めての大きなパーティーなんです。」

そう言いながら、彼女は少し目を伏せ、さりげなく黒田時久の視線を避けた。

個室は薄暗く、彼女はマスクをしており、声も意図的に変えていたので、黒田時久が深く追及しなければ、気づかれることはないだろう。

黒田時久は目を細めて彼女を十数秒見つめ、予想通りに口を開いた。「そうだな。お前みたいな小さなダンサーが、俺に会えるはずがないよな。」

園田円香がほっと息をつこうとした時、黒田時久の興味深そうな声が再び響いた。「でも、お前の顔に興味が湧いたよ。ポールダンスをこんなに優雅に踊れるなんて、その顔は...本当に天女が降りてきたのかもしれないな。」

彼の言葉が落ちると同時に、手が彼女の顔のマスクに伸びてきた。

突然の攻撃だったが、園田円香は警戒を怠らず、さりげなく顔を横に向けることができた。

黒田時久の手は空を切った。

しかし彼は怒るどころか、むしろ一層興味を持ったようで、顎に手を当てながら言った。「お嬢さん、自分で取ってくれよ。マスクの下にどんな顔があるのか、とても楽しみだ。」

先ほどまで園田円香に興味を失っていた水卜坊ちゃんは、この状況を見て再び注目し、抱きしめていた女性を押しのけて、園田円香に向かって言った。「お嬢さん、黒田坊ちゃんがあなたの顔を見たいと言っているんだから、マスクを取ったらどうだ?もし黒田坊ちゃんのお気に入りになれば、これからは黒田坊ちゃんについていけば、いいものづくしだぞ!」

この言葉に、他の者たちも暗示的な笑いを漏らした。

園田円香の目が僅かに凝った。他の誰かならマスクを外して適当に済ませることもできたが、目の前の男が黒田時久である以上、このマスクは外せなかった。

前回クラブで江口侑樹に他の男と一緒にいると誤解され、ひどい目に遭い、病気になって命を落としかけたことを忘れていなかった。

今回また江口侑樹に見つかれば、どんな罰を受けるかはさておき、山田真澄を救いに行けなくなったら、自分を許せないだろう。