第120章 もう一度チャンスをください

江口侑樹は何も言わず、黒い瞳で冷たく彼を見つめていた。

その視線に安藤秘書は背筋が凍るような思いをし、急いで頭の中で確認した。一体何を見落としたのだろうか。

しかし、どう考えても、江川社長の指示通りにすべてを実行したはずだ。どこも間違っていないはずなのに。

安藤秘書は自分のボスの死の凝視に耐えられず、意を決して弱々しく再び尋ねた。「社長、私の何か間違いがありましたら、どうぞ仰ってください。必ず改善いたします！！」

数秒後、江口侑樹はようやく口を開いた。「君は彼女のことを何と呼んだ？」

突然の質問に、安藤秘書はさらに困惑したが、その言葉をよく考えてみると、すぐに悟った。「社長、申し訳ありません。園田さんと呼ぶべきではなく、奥様と呼ぶべきでした。」

そう言って、こっそりと江口侑樹を見ると、彼は唇の端をかすかに上げ、視線を戻して身を屈め、車内に入った。

安藤秘書はようやく大きく息をついた。よかった、正解だった。

さっきは本当に死ぬかと思った。ボスの視線があまりにも鋭く、会社の機密を漏らしでもしたのかと思ったのに、結局は…呼び方の問題だけだった。

しかし、以前は園田さんと呼んでも社長は気にしなかったのに、今では園田さんと呼ぶのを聞くのも嫌がる…昨日のあのヒーローのような救出劇を経て、社長と奥様の関係が急速に進展したようだ！

安藤秘書も思わず二人のために嬉しくなった。母さん、僕は本物のカップルを見つけました！！

…

車は江川グループの入り口に到着した。

江口侑樹がドアを開けて降りると、突然細い影が駆け寄って来て、彼の腕を掴もうとしたが、彼は軽く身をかわし、その影は空を切って地面に転んでしまった。

江口侑樹は目を伏せ、冷たく彼女を見つめた。

林田茜は泣きそうな顔で、哀れっぽく江口侑樹を見上げ、声を出すと同時に涙声になった。「侑樹さん、うぅ…」

彼女は直接告げ口を始めた。「あなたに会いに来たのに、入り口の警備員二人が絶対に入れてくれないの。予約が必要だとか言って…私に予約なんて必要なの？侑樹さん、彼らを解雇してよ、全然気が利かないわ！」

安藤秘書も車から降りて、彼女の言葉を聞いて、思わず笑いそうになった。

この林田茜は本当に最初から最後まで世間知らずのお嬢様で、今、気が利かないのは彼女自身なのに！