彼女はまだ、今日この危機を乗り越えられると思っていたのに、まさかこんな土壇場で……
園田円香は無意識に江口侑樹を見つめた。江口侑樹は彼女を見ることなく、むしろ手を伸ばして、そのピンクのバラの花束を直接受け取り、「私たち夫婦への訪問の贈り物をありがとうございます」と言った。
こうして、園田円香に贈られるはずだった花は、彼らの夫婦への贈り物に変わってしまった。
佐藤先生はしばらく手を離さず、黒い瞳で園田円香をじっと見つめ、園田円香の視線は江口侑樹に向けられていた。
半秒後、彼の手が少しずつ緩んでいった。
江口侑樹は花を抱え、さらに言った。「そうそう、佐藤先生、この間円香と真澄のお世話になりありがとうございました。あなたの医療チームが現在重要な研究を進めていることは承知しています。私たち夫婦の名義で、あなたの医療チームにXYC機器一式を寄贈させていただきたいと思います。お役に立てば幸いです」
XYC機器……
園田円香は目を大きく見開いた。これは現在の医療界で最新の機器で、お金があっても必ずしも手に入るとは限らない、入手困難な機器だった。それを江口侑樹は一言で一式寄贈すると……
彼女は江口侑樹が太っ腹なことは知っていたが、この瞬間でも……やはり衝撃を受けた。
佐藤先生でさえ、その眼差しにわずかな動揺が見られた。
もし江口侑樹が金銭で感謝を示すのなら、彼は一顧だにしないだろう。しかし、XYC機器を断れる医療チームは一つもない。この機器があれば、彼らの研究はより速く、よりスムーズに進み、人類により良い貢献ができる。
しかし江口侑樹の態度も非常に明確だった。彼は園田円香の夫として、彼女に代わって佐藤先生への恩を返そうとしているのだ。この謝礼を受け取れば、彼と園田円香の間には借りも貸しもなくなる。
なるほど、園田円香が彼を好きになるはずだ。確かに並の男ではない。
佐藤先生は躊躇いがちな眼差しで、何も言わなかった。
江口侑樹も彼を急かすことなく、園田円香の方を向いて言った。「妻よ、先に中に入っていてくれ。佐藤先生と少し話がしたいんだ」
「…………」
二人きりで話?それとも一対一の勝負?
園田円香は躊躇いながら、軽々しく立ち去ることができなかった。もし江口侑樹がまた無闇に怒り出したら、佐藤先生に申し訳が立たないじゃないか!