江口侑樹は軽く眉を上げ、瞳に微かな光を浮かべると、園田円香を抱き寄せながら中に入っていった。
三人がリビングに入ると、園田円香は佐藤先生に向かって言った。「佐藤先生、何か飲み物はいかがですか?」
「お水で結構です」
「はい、どうぞお座りください」
そう言って、園田円香は不安そうに江口侑樹を一瞥した。江口侑樹もちょうど彼女を見ており、二人の目が合った。
彼女の考えていることを察したかのように、江口侑樹は意味ありげに口角を上げた。
園田円香は心を見透かされて少し気まずくなったが、念のため強引に頼み込んだ。「あなた、佐藤先生のことを…よろしくお願いしますね…」
今や彼らは利害関係を共にする身。彼女は江川夫人としての体面を保たなければならず、彼も部外者の前で彼女の立場を崩すわけにはいかないはずだ。
まるでこの言葉を待っていたかのように、江口侑樹はようやく静かに頷いた。「わかった」
園田円香は何度も振り返りながらキッチンへ向かった。
彼女の姿が完全に視界から消えると、江口侑樹は黒い瞳を佐藤先生に向け、薄い唇を開いた。「佐藤先生、このヴィラは私と円香の新婚の家です。見学されますか?」
佐藤先生は穏やかな笑顔を保ったまま、断らなかった。「ええ、構いません」
「どうぞ」
江口侑樹は佐藤先生を案内し、広大なヴィラの見学を始めた。
ヴィラは広大な敷地を占め、非常に豪華に装飾されており、裏手は山に囲まれ、景色も非常に美しく、空気も極めて清々しかった。
二人が外の中庭に出ると、花壇にピンクのバラが一面に咲き誇っているのが目に入った。可愛らしいミニチュアの花の海だった。
江口侑樹はそのピンク色の一面に目を向けながら口を開いた。「円香は幼い頃から花や草が大好きで、特にピンクのバラが一番のお気に入りなんです。彼女が言うには、満開の花を見るたびに、その生き生きとした様子に気分が良くなるそうです」
「私がこのヴィラを購入したのも、このピンクの花の海に魅せられたからです。円香がきっと気に入ってくれると思いました。案の定…このヴィラの中で、彼女が一番好きなのはこの小さな場所なんです」
園田円香がピンクのバラを好きなことは、佐藤先生も知っていた。