安藤秘書は自分の社長のその言葉に……しばらく言葉を失った。
そして、思わず悲しみが込み上げてきた。
恋愛のことと言えば、彼は付き合いたくないわけでもなく、その資格がないわけでもない。整った顔立ちで、高給取りのエリートだから、本来なら引く手数多のはずだった。
しかし……数年前、江川氏を自分の社長が引き継いだばかりの頃は仕事が非常に忙しく、秘書である彼は当然さらに忙しくなり、女性と知り合う時間さえなかった。
その後、社長と奥様が結婚する準備をしていた時、彼はてっきり社長が結婚したら、仕事と家庭のバランスを取って、奥様と過ごす時間を作るだろうから、自分も恋愛する時間ができるだろうと思っていた。ところが、社長は婚約を破棄してしまった。
それだけでなく、仕事中毒と化してしまい、そのため彼の時間もほとんど仕事に費やされることになった。
やっとの思いで時間を作って女性とコーヒーを飲んだり、お酒を飲んだりする約束をしても、雰囲気が良くなってきた頃に必ず社長から緊急の電話が入るのだった。
次第に、彼と付き合おうとする女性はいなくなり、自然と今まで独身のままとなってしまった。両親と話をすると、もう十回に九回は結婚を催促されるようになっていた。
いけない、このまま諦めるわけにはいかない!
社長の幸せのためにも、自分の幸せのためにも、社長と奥様を何としても引き合わせなければならない。
安藤秘書は気持ちを整え、勇気を出して江口侑樹を見上げ、「社長、私自身は経験がありませんが、豚肉を食べたことがなくても、豚を見たことはありますよ!」
「ほう?」江口侑樹は眉を少し上げた。「聞かせてもらおうか」
「えーと」安藤秘書はわざとらしく軽く咳払いをして言った。「実は、私の両親は村で一番仲の良い夫婦として有名なんです。間違いなく!」
「でも母から聞いた話では、父と母は見合いで知り合ったそうです。最初はお互いに気に入らなかったんですが、両家の年長者が気に入って、どうしても結婚させようとして、結婚することになったんです。最初はお互いのことが気に入らなくて、三日に一度は小さな喧嘩、五日に一度は大喧嘩で、一番ひどい時は母が荷物をまとめて実家に帰ってしまったほどでした!」
江口侑樹は黒い瞳を凝らして「それで?」