第134章 新婚の夜

江口侑樹は彼女を振り返って見て、薄い唇を開いて二文字を吐き出した。「食事だ」

園田円香は最初は驚いたが、すぐに抵抗を止めて、にこにこと言った。「じゃあ、行きましょう」

彼女は自分のお腹を空かせたままにはしておけないのだ。

江口侑樹は思わず軽く笑った。

彼女はこういう時だけ、一番素直で言うことを聞くのだ。

二人はホテルのレストランに来て、席に着くと、江口侑樹は園田円香にメニューを渡して言った。「食べたいものを注文して」

園田円香は思わず恐縮した。

江口侑樹は午前中明らかに機嫌が悪かったのに、数時間姿を消して戻ってきたら、何事もなかったかのように彼女に優しく接している?

お腹が空いたら食事に連れて来て、好きなものを注文させてくれる。

彼はもしかして川劇の変面を習ったのだろうか?

「どうした?俺を見ているだけで満腹になれるのか?」男性の冗談めいた声が突然響いた。

園田円香の頭の中の妄想が打ち破られ、彼女は我に返り、慌ててメニューを取り上げ、自分の少し恥ずかしそうで慌てた表情を隠すように顔の前に立てた。

彼女は自分が何を注文したのかよく分からず、ただメニューを適当に指さしただけだった。しかし顔を上げると、ウェイターの驚いた表情と目が合った。

園田円香も驚いて、どこか間違っているのだろうか?

江口侑樹は低い声で笑いを含ませながら言った。「本当に、スープを三杯も注文するつもりか?」

「えっ?」

園田円香は反射的にメニューを見直した。確かに...彼女が注文したのは全部スープで、しかも三種類の違うスープを...。

彼女の頬が止めどなく赤くなった。

全て江口侑樹のせいだ。彼の行動が急にこうなったりああなったりして、理解に苦しませなければ、こんな恥ずかしい思いをすることもなかったのに。

ウェイターが先ほど彼女を見た目が、まるでバカを見るような目だったのも納得だ...。

「私が注文しよう」

男性はそう言いながら、園田円香の手からメニューを取り上げ、手慣れた様子で円香の好きな料理を何品か注文し、最後に彼女を横目で見ながら、また冗談めかして言った。「これで十分か?」

「...」

園田円香は恥ずかしさと怒りで思わず言い返した。「十分です!」

江口侑樹は怒るどころか、むしろより機嫌が良さそうで、口角には笑みが浮かんでいた。