第144章 彼女を手なずけられない

安藤秘書はドアを開けて病室に入り、息を整える間もなく、ベッドに横たわる園田円香に向かって言った。「奥様、江川社長が目を覚まされました!」

園田円香は一瞬呆然としたが、その後、暗かった瞳に光が宿った。

江口侑樹が目覚めたなら、大事には至らなかったということだ。

「私、今から様子を見に行きます」そう言って、彼女は布団をめくって起き上がろうとしたが、不注意で傷口を引っ張ってしまい、苦痛の呻き声を漏らした。

それを見た染野早紀は首を振って、「何を急いでいるの?彼は逃げないわよ!」

文句を言いながらも、彼女は手を差し伸べて園田円香がベッドから降りるのを手伝った。

園田円香は彼女に微笑みかけ、「早紀、一緒に江口さんを見に行かない?」と尋ねた。

「遠慮するわ」染野早紀はきっぱりと断った。「今回の江口の行動は及第点だけど、まだ私の観察リストに載ってるの。あなたの模範的な夫になれたら、その時は親友として食事に誘ってもらうわ」

少し間を置いて、染野早紀は付け加えた。「しっかり養生してね。次に来た時は、元気いっぱいの姿を見せてもらうわよ」

園田円香は頷いて、「わかった」と答えた。

染野早紀はようやく視線を安藤秘書に向け、顎をしゃくって女王様のように命じた。「奥様をしっかり支えなさい」

その威厳のある態度に、安藤秘書は心服し、すぐに前に出て恐縮しながら園田円香を支え、「はっ」と言いそうになった。

「じゃあ、先に行くわ」

染野早紀は三言を残し、サングラスをかけてハイヒールで颯爽と去っていった。

安藤秘書は彼女の後ろ姿を見て感心した。美人は確かに美人だが、この高貴で冷艶な雰囲気は、確かに人を畏怖させる。

なるほど、秦野お爺さんでさえ手に負えないはずだ……

視線を戻した後、彼は園田円香を支えて外へ向かった。

江口侑樹の病室に近づくにつれ、園田円香の心臓の鼓動は速くなっていった。病室の入り口に着いた時、園田円香は無意識に足を止めた。

安藤秘書は不思議そうに、「奥様、どうされました?」と尋ねた。

園田円香は自分でも何がどうしたのかわからなかった。江口侑樹が目覚めて安心したし、嬉しくもあったが、どう向き合えばいいのか一瞬わからなくなった。

おそらくこれが、いわゆる故郷に近づく時の緊張のような感情なのだろう。