第148章 後顧の憂いはない

言い終わると、安藤吉実は立ち上がり、そのまま出口へと向かった。

出ようとした時、林田茜の低い声が聞こえてきた。「本当に私のママを大切にしてくれるの?」

安藤吉実は足を止めたが、振り返らずに断言した。「ちゃんと面倒を見るわ。あなたは心配しなくていい」

心配しなくていい……

林田茜はその言葉を噛みしめ、そして「分かったわ」と言った。

安藤吉実の瞳に一筋の暗い光が走り、足を踏み出して去っていった。

その後数日間、田中の丁寧な看護のおかげで、江口侑樹と園田円香の精神状態は徐々に良くなり、体調も回復してきた。

園田円香は表面的な怪我だけで、海外での生活で鍛えられた「タフな体」のおかげで、二日ほど静養すれば、ほぼ完全回復した。

江川おばあさんの方は田中の世話に慣れていたので、園田円香は田中を独占したくないと思い、別荘に戻らせて、自分で江口侑樹の看病をすることにした。

田中も察しが良く、若い二人が愛を育んでいる時期だから、毎日犬の餌を食わされるよりも、おばあさんと一緒にいた方がいいと思った。

そこで彼女は二つ返事で帰っていった。

安藤秘書は毎日訪れていたが、江口侑樹が気を使えない状態で、しっかり養生する必要があったため、ほとんどの仕事は自分で処理し、重要で緊急な、自分では処理できない案件だけを選んで報告していた。

今、安藤秘書はベッドの傍らで、真剣に江口侑樹に仕事の報告をしていた。

園田円香は邪魔をしたくなかったので、果物を持ってバスルームに行き、きれいに洗って持ってきた。

病室では、安藤秘書はもういなくなっていた。

彼女は少し驚いて、「安藤秘書、こんなに早く報告終わったんですか?」と聞いた。

確かに大量の書類を持ってきていたはずなのに。

江口侑樹は黒い瞳で彼女を見つめ、淡々と答えた。「全ての仕事を私がやる必要があるなら、彼にあれだけの高給を払う意味がない。給料に見合った仕事をしてもらわないと」

なんて資本家らしい物言い……

労働者の搾取をこんなに上品に言い表すなんて!

園田円香は心の中でぼやきながら、ベッドの傍らに歩み寄り、手にした果物を彼の目の前に差し出した。「どれが食べたい?」

江口侑樹は顎を少し上げ、リンゴを指さした。

園田円香は片手を空け、リンゴを取って彼に渡そうとした。