指先が仮想キーボードの上で素早くメッセージを打ち、送信した。
一秒後、病室のベッドサイドテーブルの上で、江口侑樹の携帯画面が一瞬光り、すぐに消えた。
女は携帯をしまい、振り返って、立ち去った。
…
園田円香は我に返り、居心地悪そうに咳払いをして、話題を探すように言った。「この花、どうしましょうか?」
田中は提案した。「花瓶に生けましょうか?」
彼女の言葉に、江川おばあさんは横目で彼女を見て、「捨てるに決まってるでしょう。正体不明の人から届いた花なんて、むやみに受け取れないわ!」
園田円香は頷いて同意した。「安全第一です!」
彼女は絶対に認めないだろう。それは江口侑樹の女友達たちが病室に現れるのを見たくないからだということを!
目障りだし、胸が詰まるから!
江口侑樹は見抜いていたが何も言わず、口元を緩めて「好きにして」と言った。
田中は手際よくユリの花束を抱え上げ、立ち上がって病室を出て、ゴミ箱に捨てた。
江口侑樹はまだ衰弱していて、この短い時間目覚めていただけで疲れと眠気が押し寄せ、目つきもぼんやりしてきた。
江川おばあさんはその様子を見て言った。「侑樹を休ませましょう。私も休みに帰るわ。田中さん、あなたは二人の面倒を見てあげて。二人とも弱っているから、他の人に任せるのは心配だわ。」
田中は頭が冴えないところはあるが、看病に関しては一流だった。
田中は頷いた。「はい、奥様」
園田円香も怪我人なので、無理はしないつもりだった。「はい」
「じゃあ、私は先に帰るわ」
「奥様、お送りします」
田中は江川おばあさんを支えて立ち上がり、外へ向かった。
園田円香も見送ろうとしたが、江川おばあさんに止められた。「あなたは送らなくていいわ、休んでいなさい」
「おばあさま、お気をつけて」
二人を見送った後、園田円香はベッドの側に戻り、江口侑樹を支えて横たわらせ、布団を引き上げて丁寧にかけてあげた。
「園田円香」男は低い声で呼んだ。
「はい?」
江口侑樹は懸命に瞼を持ち上げて彼女を見つめ、もう一度呼んだ。「園田円香」
園田円香は少し困惑したが、またも応えた。「ここにいますよ」
江口侑樹は微笑んで、もう何も言わず、目を閉じた。