第158章 お久しぶり

まるで彼が断らないことを知っているかのように、安藤吉実は彼の返事を待たずに続けた。「用事があるの。侑樹、夜に会いましょう」

そう言うと、彼女は先に電話を切った。

江口侑樹は携帯を置き、瞳の奥に深い光を宿し、感情を読み取ることはできなかった。数秒後、彼は再び目を上げ、安藤秘書を見つめながら口を開いた。「続けて」

安藤秘書は社長が報告の続きを求めていることを理解し、先ほど言い終えなかった内容を話し始めた。「安藤さんは確かに先日帰国されました。配信者コンテストの名簿でご覧になった安藤吉実が、安藤さんです」

江口侑樹は何も言わず、およそ十数秒後にようやく口を開いた。「下がっていい」

安藤秘書は頷き、向きを変えてオフィスを出た。

ドアが静かに閉まった後、彼の冷静さを保っていた表情に、一筋のひびが入った。

どうして安藤さんがこのタイミングで戻ってきたんだろう……

どうして社長と奥様が新たな一歩を踏み出そうとしているこのタイミングで戻ってくるんだろう。

彼の心の中に漠然とした不安が芽生えた。このうまくいっている状況が、また一変してしまうのではないだろうか？

…

別荘にて。

園田円香はキッチンで、江川おばあさんから酸菜魚の作り方を教わっていた。

彼女は酸菜魚の作り方を知っていたが、江川おばあさんには独自の技があり、それを彼女に伝授して、今後は彼女が江口侑樹のために作ることになっていた。

園田円香は当然従った。江川おばあさんの作る酸菜魚は、確かに江口侑樹が昔から今に至るまで大好きな料理だった。

江川おばあさんは惜しみなく教え、園田円香は真剣に学んだ。一時間余りで園田円香は完成させ、その香りを嗅ぎながら、後で江口侑樹が誰が作ったか分かるかどうか心の中で推測していた。

その後、彼女は他にもいくつか料理を作り、全て完成したときには既に七時になっていた。

普段なら、この時間には江口侑樹が帰ってくる頃なのに、今日はまだ姿を見せていない。

園田円香はエプロンを外し、手を洗い、キッチンから出てきて、リビングのソファに置いてあった自分の携帯を手に取った。LINEで江口侑樹にどこにいるか聞こうと思ったが、江口侑樹からの新しいメッセージを見つけた。

江口侑樹：【夜は用事があるから、私を待たずに食事して。遅くなる】