第162章 彼の服には彼女の香水の匂いが

染野早紀は眉間をこすった。

少し考えてから、彼女は携帯を手に取り、直接秦野慶典に電話をかけた。

しかし、いつもなら即座に電話に出る秦野慶典だったが、今回は冷たい機械音が聞こえるだけだった:お客様のお掛けになった電話は電源が入っていないか…

染野早紀は怒りながら笑い、携帯を机に叩きつけた。

なるほどね、友達のために命を張るつもりなのね、私の電話にも出ないなんて。

どうやら、江口侑樹と安藤吉実は、本当に深い関係になったようね!

園田円香はここ数日、別荘で本を読んで練習していた。一方、江口侑樹はあの朝出て行ってから、ずっと戻ってこなかった。二人とも忙しく、この数日はLINEで一、二言交わしただけだった。

今日は、ついにテレビ局で宣伝写真を撮影し、ついでに選手たちと顔合わせをする日だった。

朝食を済ませた後、江川おばあさんは特に彼女に注意を払い、以前江口侑樹が買ってきた服を着させ、きちんと身なりを整えさせてから、外出を許可した。

園田円香は車に乗り込み、江川おばあさんと田中がまだ玄関で応援のジェスチャーをしているのを見て、思わず微笑んだ。

車が徐々に遠ざかっていく中、園田円香は携帯を取り出したが、江口侑樹からのメッセージや電話は見当たらなかった。

彼はいつも彼女のコンテストのことを気にかけていたのに、今日から本格的に大会が始まることを知っているはずなのに、何の反応もないなんて。

最近、忙しすぎて昼も夜も分からないほどなのかしら?

約1時間後、車はさくらテレビビルの前で停まった。園田円香は車を降り、その場に立ち止まって、頭を上げ、入り口の上にある大きなロゴを見上げた。

ここは、ニュースキャスターを目指す全ての人の憧れの場所だった。

彼女は小さい頃からテレビのアナウンサーが好きで、ニュースが放送されるたびに、きちんとソファに座って見ていた。ずっとこの職業に憧れていた。

今、彼女はついに子供の頃からの理想に向かって前進し始めるのだ!

正直に言えば、彼女の心は少しときめいていた。

深く息を吸い込んで、園田円香は足を上げ、一歩一歩階段を上がり、さくらテレビのロビーに入った。

ロビーの壁には、さくらテレビの有名アナウンサーの写真が所狭しと飾られていた。一人一人が徳も才能も備え、業務能力が極めて高く、尊敬される先輩たちだった。