江口侑樹は安藤秘書を横目で見て、「ケーキは食べない」と言った。
園田円香が気遣ってくれたことは嬉しかったが、彼女は自分が甘いものが苦手なことを知っているはずなのに、なぜケーキを持ってきたのだろう?
こんなに気が利かないなんて?
安藤秘書はすぐに理解した。社長はこういう甘いものを嫌っているが...自分は好きだし、長い会議で空腹だった。
安藤秘書は唾を飲み込みながら、胸を叩いて言った。「江川社長、ご安心ください。奥様が持ってきたケーキは私にお任せください。一滴も無駄にせず、全部いただきます!」
そう言って、社長の一言を待ち望んでいた。
江口侑樹は口角を歪めて、答える代わりに尋ねた。「ケーキが食べたいのか?」
安藤秘書はテーブルのケーキを見ながら何度も頷いたが、次の瞬間、社長の容赦ない言葉が聞こえた。「自分で買いに行け」
「……」
安藤秘書は愛想を失った。なんだよ、甘いものが嫌いなら食べさせてくれてもいいじゃないか。やはり社長の奥様に対する独占欲は本当に恐ろしい。
この前も、奥様を少し長く見ただけで睨まれた。
かなわないよ、かなわない!
「社長、他に用件がなければ、私は失礼します」
「ああ」
安藤秘書はオフィスを出て、静かにドアを閉めた。
…
江口侑樹はソファに座り、袋からケーキを取り出した。しばらく見つめた後、眉間にしわを寄せながらも、小さなフォークを取り、一口大に切って口に入れた。
甘さが味覚を襲い、彼の瞳の嫌悪感はさらに濃くなった。
コップ一杯の水を注ぎ、一口の水を飲んでは一口のケーキを食べる、という具合に繰り返し、ようやくケーキを全部食べ終えた。
食べ終わると、スマートフォンを手に取り、WeChatを開いてメッセージを編集して送信した。
…
別荘にて。
園田円香がシャワーを浴び終えて出てきたとき、ちょうどスマートフォンが「ピン」と鳴った。
ベッドの側に行き、スマートフォンを手に取ると、江口侑樹からのWeChatメッセージだった。急いで開いて見た。
江口侑樹:【ケーキが甘すぎた】
つまり、食べてくれたんだ。
園田円香は江口侑樹が甘いものが苦手なことを知っていた。今日は心が乱れていて適当に買ったのに...彼は食べてくれたのだ。