第176章 旦那様をなだめる

園田円香の胸がドキッとした。

怪我は彼女にとって日常茶飯事だったが、今回は子供を救うための怪我だったので、価値があると思っていた。でも江口侑樹は彼女が怪我をするのを見るのが嫌いだった。

医者は園田円香に薬を塗り、添え木で固定し、最後に包帯を巻いて注意を与えた。「この数日間は傷口を水に濡らさないように。できるだけ床上安静で、動き回らないように。一週間後に添え木を外しに来てください。その時にレントゲンも撮りましょう。」

「はい、分かりました。」

医者と看護師が出て行くと、診察室は静まり返り、針が落ちる音も聞こえそうなほどだった。

園田円香はゆっくりと目を開け、ずっと黙って横に立ち、顔を曇らせている男を盗み見た。彼女は黒い瞳をくるくると回し、突然顔をしかめ、苦しそうな表情を浮かべた。

江口侑樹は彼女を横目で見たが、動じなかった。

園田円香は彼を見つめ、少し震える声で言った。「侑樹、本当に痛いの。」

男は再び黒い瞳で彼女を横目で見た。今度はようやく反応を示し、足を動かしたが、彼女の方には向かわず、ドアの方へ歩いて行った。

園田円香が何をするのかと聞こうとした時、次の瞬間、彼はドアを開けて出て行った。

「……」

園田円香は呆然とした。この展開は予想外すぎた。

江口侑樹は何のつもり?自分の命を顧みずに怪我をしたことに怒って、このまま放っておくつもり?

彼女が不思議に思っている時、ドアが再び開き、江口侑樹が車椅子を押して入ってきた。

彼は直接園田円香の前まで来ると、言葉も交わさずに身を屈め、彼女を抱き上げて椅子に座らせ、外へ向かって押し始めた。

動作は優しかったが、彼の全身から発する冷たさは、まだ怒りと不満に満ちていることを示していた。

病院の出口に着くと、車が待っていた。江口侑樹は再び園田円香を抱き上げ、車内に乗せた。続いて彼も乗り込み、車は発進して車の流れに合流した。

園田円香は江口侑樹の氷のように冷たい横顔を見て、今回は簡単には機嫌を直してくれないだろうと分かった。

彼女は眉をひそめて考えた後、口を開いた。ただし、具合が悪いせいで、声は特に小さかった。「侑樹、話があるんだけど、もう少し近くに来てくれない?」

江口侑樹はまだ冷たく彼女を見つめ、動かなかった。