第190章 彼女の痕跡が消えた

園田円香はさくらテレビを出て、とても気分が良く、心が晴れ晴れとしていた。

世の中にはまだ正義と公平があるのだと。自分のものは自分のもので、他人がどんなに策を弄しても奪うことはできないのだと。

嬉しいことは、すぐに江口侑樹と分かち合いたかった。

スマートフォンで時間を確認すると、もう5時近くだった。

ここから江川ビルまでの時間を計算すると、40分ほどかかる。ちょうどディナータイムだ。

夫とキャンドルディナーの約束ができそうだ。

思い立ったが吉日、円香はスマートフォンのアプリで配車を呼び、すぐに車が到着した。乗車後、江口侑樹にLINEを送った。

しかし江口侑樹からの返信はなく、きっと忙しいのだろうと思い、これ以上邪魔するのを控えた。

車が江川グループの玄関に到着し、彼女は降車して真っすぐ中に入った。

警備員とフロントは社長夫人である園田円香のことをよく知っていて、彼女は何の障害もなく入館し、社長専用エレベーターで上階へ向かった。

フロントから連絡を受けた安藤秘書が迎えに来て、笑顔で言った。「奥様、どうしてお越しになられたのですか?」

「ああ、この近くで用事があったので、侑樹と夕食を食べようと思って。彼は忙しいの?」円香は答えた。

安藤秘書は頷いて、「小さな会議中です。」

腕時計を見て、「あと30分ほどで終わると思います。奥様、その間オフィスでお待ちになりますか?」

「はい。」

安藤秘書は円香を社長室に案内した。円香は安藤秘書が忙しそうなのを見て、自分の仕事に戻るよう促し、一人で待つと言った。

「何かございましたら、いつでもお呼びください。」

「わかりました。」

安藤秘書はオフィスを出て、そっとドアを閉めた。

以前、円香は江口侑樹のオフィスをよく知っていた。付き合っていた頃、彼女はよくここに来ていた。当時彼女は大学生で、江口侑樹はすでに江川グループの経営を引き継ぎ始めていた。

彼は忙しかったが、円香は彼を思いやりながらも、いつも会いたがっていた。そのため、二人のデートの場所のほとんどがここだった。

江口侑樹が仕事をしている間、彼女はソファで本を読んだり、動画で勉強したり、寝転がってドラマを見たりしていた。

言葉を交わす必要もなく、時々お互いを見つめ合うだけで、そんな時間も非常に甘美だった。