先ほど彼女は、染野早紀が自分の用事があると思っていたが、今になって考えると、この件は彼女に関係があるようだ。
そうでなければ、染野早紀の性格からして、不機嫌になったら、このように抑え込んでいるような状態にはならないはず。彼女をこのように慎重にさせるのは、円香の件しかないだろう。
染野早紀は箸を止め、園田円香を見上げ、かなり頭を悩ませているようだった。
彼女がこんなに敏感で賢いのは、時には良いことではない。よく言うでしょう...物事を深く考えすぎないほうが、幸せになれると。
でも、この件はいずれ話さなければならない。敵がすでに彼女の周りに現れているのだから、もし警告しなければ、円香が損をすることになってしまう。
染野早紀は軽く咳払いをし、表情を引き締めて、真剣に話し始めた。「円香、これから何を聞いても冷静でいてね?」
その様子を見て、園田円香の心に不吉な予感が芽生えた。
染野早紀をここまで真剣にさせる事は数少なく、状況は彼女が想像していたよりも悪いのかもしれない。
彼女は水を一口飲み、深く息を吸って、彼女を見つめながら言った。「話して」
「私、この前海外に行ったでしょう?」染野早紀は言葉を選びながら、できるだけ穏やかな口調で話し始めた。「実は、他の用事ではなくて...安藤吉実のことを調べに行ったの」
彼女が雇った探偵からなかなか連絡がなかったので、せっかちな性格の彼女は自分で動き出した。探偵と一緒に海外で調査を行い、本当に...安藤吉実に関する多くの情報を見つけ出すことができた。
その言葉は園田円香の予想外だった。彼女は一瞬戸惑い、「安藤吉実を調べに?」
「うん」染野早紀は確かに頷いた。
園田円香は眉をひそめた。「なぜ...彼女を調べる必要があったの?」
もしコンテストの優勝を巡る争いだけが理由なら、染野早紀がここまで大げさな行動を取るとは思えない。
染野早紀は軽く下唇を噛み、園田円香の手を握ってから、ゆっくりと赤い唇を開いて続けた。「私が一度、個室で安藤吉実が秦野慶典、黒田時久、それにあのろくでなしの江口侑樹と一緒に集まっているのを見かけたから」
園田円香は無意識に唾を飲み込んだ。
染野早紀は一度目を閉じ、そして一字一句はっきりと言った。「江口侑樹は...安藤吉実をとても大切にしているの」