園田円香は先に自分の病室に戻り、持ってきたバッグから親指の第一関節ほどの大きさの透明なプラスチックの小瓶を取り出し、手のひらに握りしめた。
ドアの前で、看護師が配膳カートを押してきて、軽くノックをした。「園田さん、お昼ご飯をお持ちしました。」
「はい、中に入らなくて大丈夫です。私が取りに行きます。」
園田円香は応じながら、数歩でドアまで歩いていった。彼女の視線は配膳カートに落ち、各トレイに部屋番号が貼られているのを確認した。
患者の体調に応じて食事内容を変えなければならないからだ。
葉山汐里は502号室に入院していて、二つの食事があった。一つは一目で栄養食と分かるもので葉山汐里のもの、もう一つは通常食でボディーガードのものだった。
看護師は園田円香の弁当箱を手に取って彼女に差し出した。「園田さん、こちらがあなたのお食事です。」
「ありがとうございます。」
園田円香は手を伸ばして受け取ろうとしたが、受け取る直前に、彼女の手が気付かれないように緩み、弁当箱がパタンと床に落ち、中の食べ物が全部こぼれ出た。
園田円香は急いで口を押さえ、瞳に申し訳なさを浮かべた。「申し訳ありません、しっかり持てませんでした。」
看護師はこのような状況に慣れていた。ここの患者は言うことを聞かない人も多く、毎日騒ぎを起こす人も多かった。
彼女は表情を穏やかに保ち、むしろにこにこしながら優しい口調で言った。「大丈夫ですよ、園田さん。お部屋にお戻りください。後ほど新しいものをお持ちします。」
「では、片付けをお手伝いさせてください。」園田円香は非常に申し訳なさそうにしゃがみ込もうとした。
お客様は神様だ。看護師が彼女に手を出させるわけにはいかず、急いで制止した。「園田さん、お手を煩わせないでください。清掃員さんを呼びますから。」
「いいえ、私は潔癖症なので、すぐに片付けないと気が済みません。看護師さん、配膳を続けてください。ここは私がやります。」
そう言いながら、園田円香はすでにしゃがみ込んでいた。
看護師も仕方なくしゃがみ込み、焦って言った。「園田さん、私が片付けますから。あなたは患者さんですので、お手を煩わせるわけにはいきません。上司に知られたら叱られてしまいます!」