彼女は知っていた。これは危険で、極めてリスクの高い行動だった。しかし、この瞬間、涙を浮かべた瞳と懇願の言葉を見て、かつての自分を思い出した。
あの時の彼女は孤立無援で、誰も助けてくれなかった。そんな絶望的な気持ちがどんなものか、よく分かっていた。
だから今、葉山汐里の要求を断ることはできなかった。
園田円香は部屋の隅に歩み寄り、車椅子を押してきた。そして、彼女の体を縛っていた拘束帯を力強く解き、葉山汐里の虚弱な体を支え、慎重に車椅子に座らせ、ドアの方へ押していった。
背後でトイレのドアが開き、警備員が壁につかまりながら出てきて、この光景を目撃した。彼は急いで叫んだ。「お前は誰だ?止まれ!」
まさか、この大男がまだ持ちこたえているとは!
園田円香は足を止め、むしろ振り返って、警備員に向かって大股で歩み寄った。
彼女の動きは素早く、衰弱して反応が鈍くなっていた警備員に対し、膝を蹴り上げ、膝をつかせた後、後頸部を手刀で打った。
その部位は気絶させることができる場所だった。
警備員は闇うめき声を上げ、数秒もがいた後、力なく倒れ込んだ。
園田円香には彼と手間取っている時間はなかった。このあと看護師が食器を回収しに来れば、どのみち発覚する。今は一刻を争うしかない!
彼女は何も言わず、ドアに戻って葉山汐里を押して出て、ドアを閉めた。
急いで自分の病室に戻り、バッグを背負い、ブルートゥースイヤホンを装着し、葉山汐里を押しながら外に向かい、同時に安藤秘書に電話をかけた。
江口侑樹が心配で、安藤秘書に待機を命じ、彼女のバックアップとして控えさせていたのだ。
こんな時、園田円香も江口侑樹の先見の明に感心するしかなかった!
安藤秘書はほぼ即座に応答した。「奥様、ご用件は?」
園田円香は簡潔に言った。「今から葉山汐里を連れて行くわ。車で裏口で待っていて!」
昨夜帰る前に、彼女は江口侑樹とこの療養施設を一周し、裏口があることを発見していた。普段は主にスタッフが出入りする場所だった。
来る時に地図も描いて、安藤秘書に一部渡してあった。
安藤秘書は応じた。「承知しました。今すぐ車で向かいます!」
園田円香はバッグから帽子とマスクを取り出し、葉山汐里に言った。「あなたの顔を見られないようにしないと。」