…
江川グループの会議室。
安藤秘書は電話を受けると、顔色が急変した。彼は大股で会議室に向かい、勢いよくドアを開けた。
中にいた全員の視線が一斉に彼に向けられ、驚きと非難の色が浮かんでいた。
安藤秘書はそんなことは気にせず、真っ直ぐに江口侑樹の側へ行き、身を屈めて耳元で状況を手短に説明した。
江口侑樹の冷静で落ち着いていた表情が一瞬にして曇り、彼は突然立ち上がり、一言も発せずに大股で出て行った。
その様子を見て、皆はお互いを見合わせ、困惑の表情を浮かべた。
社長がこんな表情を見せるのは初めてだった。一体どんな大事が起きたのか、彼をここまで取り乱させるとは。
江川グループが倒産でもするのか?
しかし前回の危機の時でさえ、彼は少しも表情を変えなかったのに。
一体何が起きているんだ……
…
江口侑樹は猛スピードで車を走らせ、病院に着いた時には、園田円香はすでに手術室に運び込まれていた。
園田円香は妊娠中だったため、今回の救命は彼女の命だけでなく、お腹の子供のことも考慮しなければならず、難度は更に上がっていた。
状況は楽観視できなかった。
医師の分析を聞きながら、江口侑樹は両手を強く握りしめ、安藤秘書の方を向いて冷たい声で命じた。「ジェームズ博士に電話して、すぐに来てもらうように。」
安藤秘書は頷いた。「はい、社長。」
医師はジェームズ博士の名前を聞いて、目を輝かせた。「ジェームズ博士がいらっしゃれば、成功の可能性は高くなるかもしれません。」
江口侑樹は黒い瞳で医師を見つめ、一字一字はっきりと言った。「どうあっても、私の妻の命は助けてください。」
医師は何度も頷いた。「社長、全力を尽くします。」
十数分後、ジェームズ博士が到着した。
江口侑樹は前に出て迎えた。「博士、お願いします。」
ジェームズ博士は頷いた。「ニュースを見てすぐに駆けつけました。社長、江川夫人と赤ちゃんを全力で助けさせていただきます。」
「ありがとうございます。」
その後、ジェームズ博士も手術室に入った。
江口侑樹は目を上げ、手術室の上に点いている赤いランプを見つめた。心は底なし沼に沈んでいくようで、必死に這い上がろうとするものの、どんどん深みにはまっていくようだった。
彼は窓際に立ち、両手を力なく下ろした。