第280章 逆転

「林田茜はどうなった？」

彼女の名前を聞いて、江口侑樹の瞳に暗い感情が浮かび、声も凍えるように冷たくなった。「一命は取り留めたが、まだ目覚めていない。怪我の具合が深刻で、刑務所でも他の傷を負っていた。今は合併症が全て出てきていて、いつ目覚めるかもわからない」

だから、林田茜は生きる気力を失っていたからこそ、こんなにも命を顧みず、彼女を道連れにしようとしたのだ。

園田円香は目を凝らしたが、何も言わなかった。

「もういい、そんなことは考えないで」江口侑樹は慰めるように言った。「医者が言っていたように、しっかり休んで、神経を使わないようにしないと」

園田円香は鼻をすすり、ゆっくりと目を閉じた。

…

ホテルのアパートメント。

携帯の着信音が鳴り、安藤吉実が電話に出た。向こうの報告を聞き終えると、冷笑を浮かべた。「まさか園田円香の命がそんなに強いとは。あんな目に遭っても生き延びるなんて！林田茜もまだ息があるとはね」

彼女は多少不満だった。一石三鳥を狙ったのに、結局子供一人しか死ななかったのだから。

しかし...園田円香のお腹の子供が死んだことで、最大の脅威は取り除かれた。林田茜もそれなりに役に立ったということだ。

もう利用価値もない。生きていれば、それは彼女の弱みになるだけだ。

安藤吉実は口を開いた。「きれいに片付けて」

向こうは了解と返事をして、電話を切った。

安藤吉実は立ち上がり、テレビ台の方へ歩いて行き、音楽をかけた。上機嫌で、思わず歌を口ずさみ始めた。

そして、買っておいた栄養剤を取り出し、一つずつ飲み始めた。

今から、ジェームズ博士の治療に協力しながら、栄養剤を飲んで体調を整え、準備を整える。治療が終われば、侑樹との赤ちゃんを授かることができる。

…

園田円香が再び目を覚ました時、外は陽光が燦々と降り注ぎ、光が病室に差し込んで、部屋全体が暖かな光に包まれていた。

彼女は固まった眼球をゆっくりと動かした。

江口侑樹は彼女の手を握ったまま、ベッドの横で寄りかかって眠っていた。

きっと彼は彼女のそばを離れずに見守っていたのだろう。眉間には疲れの色が染み付き、顎にはわずかに髭が生えていて、ワイシャツにもしわが寄っていた。

園田円香は静かに彼を見つめ、その眼差しには少し複雑な感情が宿っていた。