第276章 江口侑樹はあなたのものよ

彼女は銃で撃たれ、彼の腕の中に倒れ込んだ。彼は彼女を抱きしめ、手には彼女のべとべとした血が付いていた。

彼は彼女の顔色が急速に血の気を失っていくのを見つめていた。痛みで彼女の表情は歪み、額には冷や汗が浮かんでいた。

彼は幼い頃から恐怖という感情を知らなかった。たった今も、犯人の銃口が眉間に向けられていても、怖いとは感じなかった。

しかし、この瞬間、言い表せないほどの動揺を感じていた。

彼の周りにはたくさんの女の子がいて、誰もが彼に恋心を抱いていると言っていた。しかし彼は分かっていた。彼女たちが惹かれているのは江口侑樹だけでなく、江口侑樹が象徴する権力と財力でもあることを。

園田円香に対しても、同じ認識を持っていた。

だから彼は、自分の命が危険に晒された時、毎日恋心を語る女の子たちの中から、誰かが命を賭けて飛び出してくるなんて、想像もしていなかった。

園田円香はその時、意識が朦朧としていたが、それでも必死に彼の服を掴み、何かを呟いていた。

彼は身を屈めて聞き入れた。

彼女はドラマでよくある「あなたが無事でよかった」といった感傷的な言葉を口にしたわけではなかった。

むしろ、とても現実的に言った。「痛い痛い痛い死にそう、私まだ18歳なのに死にたくないよ、まだ若いのに江口侑樹の手も握れてないなんて損だよ!」

そして、彼の服を掴む手にさらに力を込めて、弱々しく言った。「江口侑樹、私があなたを助けたんだから、身を以て報いてね。来世は必ず私に返してよ!」

その後、彼女は完全に意識を失った。

その時、彼は何を考えていたのだろう?

彼は思った。この小娘もたいしたものだ。こんな状況でもペラペラと喋り続けられるなんて、本当にうるさい奴だ。

それに、彼女は本当に現実的だった。

人を助けたら、見返りを求める。取り繕うこともしない。

でも……彼女の要求なら、応えられる。

ただし、条件を少し変えなければ。

来世じゃなくて、今世でいいじゃないか。

彼女が手術室に運ばれる直前、彼は彼女の手を握り、耳元で囁いた。「生きて出てきたら、江口侑樹はお前のものだ」

園田円香は男の視線を感じ取り、顔を向けると、ちょうど男の深い黒瞳と目が合った。