あれ?
予定では、今日はドイツに着いているはずなのに。
着いたのかしら?
園田円香はコンロの火を消し、キッチンペーパーで手を拭いてから、携帯電話を手に取り、通話ボタンを押した。「もしもし、博士、もう着きましたか?」
ジェームズ博士の落ち着いた声が響いた。「園田さん、申し訳ありません。こちらで緊急の重症患者の対応が入ってしまい、どうしても外せなくて。おそらくあと2日ほどかかりそうです。」
「ああ、そうですか...」園田円香は理解を示しながら言った。「博士、私は最近調子がいいので、お仕事を優先してください。大丈夫ですから。」
「はい、私が処方した薬をしっかり飲んで、体調管理に気をつけてください。何か問題があればすぐに連絡してください。」ジェームズ博士の声にはまだ申し訳なさが残っていた。「こちらの用事が済み次第、すぐに向かいます。」
園田円香は応じた。「はい、博士。」
ジェームズ博士は彼女の体調を心配して、多くの気遣いをしてくれた。博士に用事があるのなら、彼女が不満を持つはずもない。それに、たった2日のことだ。
電話を切った後、彼女は明日仕事が終わったら時間があれば、ジェームズ博士が借りた家に先に行って、掃除をしてあげようと考えた。
そうすれば、博士たちが来たらすぐに住めるようになる。
翌日、その夜は放送の予定がなかったので、5時半きっかりに退勤した。
玄関を出たところで、優しい上司の吉田明と出くわした。吉田は車を彼女の前に停め、窓を下ろして笑顔で言った。「寮に帰るの?乗せていってあげるよ。」
寮に帰るのであれば、園田円香は遠慮なく乗せてもらうところだったが、彼女はジェームズ博士が借りたアパートに行かなければならなかった。そのため、首を振って、「別の場所に寄らなければならないので、吉田先生のご好意は感謝ですが。」
吉田は頷いた。「そう、気をつけて行ってきてね。」
「はい。」
吉田は車を走らせて去っていった。
園田円香は事前にルートを調べていた。ジェームズ博士が借りたアパートまで歩いても5、6分多くかかるだけで、車だとかえって遠回りになる。そこで、ナビを開いて確認しながら歩いていった。
15分後、園田円香はアパートの前に到着し、バッグからミネラルウォーターを取り出して、キャップを開けて数口飲んでから中に入った。