第311章 お母さんの名前は?

「子授け?」

江口侑樹は眉を上げた。この小僧の両親は、どれほど子供が欲しかったのか、こんな名前を付けるなんて!

彼が黙っているのを見て、園田智則は自分の名前に驚いているのだと思い、とても誇らしげに続けた。「パパ、僕の名前はママが付けてくれたんだよ。すごくいい名前でしょう!!」

この名前が「いい」なんて、どこが?

江口侑樹は園田智則の向かいのソファに座り、長い脚を優雅に組んで、そして口を開いて容赦なく毒舌を吐いた。「良くない。」

「お前の母親は教養がないな。」

園田智則は、自分のママが世界で一番のママだと固く信じていて、誰かがママの悪口を言うのを聞くことができなかった。すぐに毛を逆立て、小さな顔を冷たくして江口侑樹に向かって言った。「僕のママは最高のママだよ。ママの悪口を言わないで、ママはすごく凄いんだから!」

なかなか母親思いじゃないか。

ママが凄いなら、パパはどうなんだ?

でも、見知らぬ男をパパと呼び、ママママと連呼するところを見ると、おそらく父親がいない子供なんだろう。

江口侑樹はもう彼を刺激するのをやめた。この小僧がまた泣き出して騒ぐのは御免だった。適当に一言聞いてみた。「その凄いママの名前は?」

こんな俗っぽい名前を付けるような母親なら、自分の名前もたいしたことないだろう。

園田智則は小さな胸を張り、頭を上げて、まるで朗読のように大きな声で紹介した。「僕のママの名前は……」

言い終わる前に、江口侑樹の携帯電話が鳴り出した。

彼は携帯を取り、着信表示を見て、指で画面をスライドさせて応答した。「もしもし。」

園田智則は話を中断せざるを得なかった。

電話の向こうから、安藤吉実の優しい声が聞こえてきた。「侑樹、さっきどうして急に電話を切ったの?」

先ほどの電話は彼女が江口侑樹にかけたもので、話している途中で江口侑樹が電話を切ってしまったので、何か問題があったのではないかと心配になったのだ。

少し間を置いて、彼女はさらに付け加えた。「そっちで何かあったの?子供がパパって呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど。」

江口侑樹は黒い瞳で園田智則を一瞥し、唇の端を少し上げて、だらしなく言った。「詐欺まがいのことをする小僧に遭遇してね。」