第335章 危機一髪

彼女は田中とは違う。田中には自分が生きていることを知らせることはできるが、江口侑樹には絶対に知られてはいけない!

しかし今、この長い廊下には隠れる場所がない。彼女が隠れようとしても、それは不可能だった。

男の足音が近づいてくるのを見ながら、彼女は下唇を強く噛んだ。

賭けるしかない!

園田円香は田中に説明する時間もなく、ただ急いで「江口侑樹に見つかるわけにはいかないの!」と言った。

そして彼女は結んでいた髪を解いて顔を隠し、マスクはずっとつけていたので、バッグからサングラスとキャップを取り出して身につけた。

その整った小さな顔は、一瞬にしてしっかりと隠された。

そして、江口侑樹が目を上げて田中の方を見る前に、彼女は立ち上がり、通行人のふりをして、声を低くして田中に「すみません、お手洗いはどちらですか?」と尋ねた。

田中は少し戸惑ったが、すぐに状況を理解し、手を上げて廊下の外を指さして「よく分かりませんが、あちらだと思います」と答えた。

「ありがとうございます」

園田円香は密かに深呼吸をし、できるだけ体をリラックスさせて、江口侑樹の方に向き直った。

彼が近づいてくる中、彼女は外に向かって歩き出した。

彼女は頭を下げ、キャップの庇を深く被って、一歩一歩外に向かって歩いた。

江口侑樹との距離が縮まるにつれ、彼女の心臓の鼓動は抑えきれないほど速くなっていった。

かつて長い間共に過ごしていたため、たとえ顔を隠していても、彼女は自分のシルエットで江口侑樹に気づかれるのではないかと心配だった。

まるで...江口侑樹が彼女の前で顔を隠していても、彼のシルエットだけで一目で分かるように。

すれ違う瞬間、園田円香は江口侑樹が少し首を傾げて、彼女を一瞥したのを感じた。

その瞬間、彼女の呼吸はほとんど止まりそうになった。

しかし、江口侑樹は次の瞬間には冷たく視線を戻し、そのまま前に進んでいった。

気づかれなかった!

園田円香は思わず安堵のため息をついた。

しかし、そのため息がまだ完全に収まらないうちに、彼女の携帯電話が突然鳴り響き、彼女を驚かせた。

そして、その着信音で江口侑樹の足が止まり、振り返って彼女を見つめた。

園田円香は振り返る勇気もなく、背筋が完全に凍りついていた。