…
時が過ぎ去り、今日は江川氏の年次総会の日となった。
江川グループは東京で最も豪華な五つ星ホテルを貸し切り、パーティーの会場と来賓をもてなす場所として使用することにした。
園田円香は午後2時に安藤秘書に迎えられ、美容室へと連れて行かれた。
そこで彼女は人形のように、メイクアップアーティスト、ヘアスタイリスト、スタイリストなどに囲まれ、5時間もかけてようやくヘアメイクと衣装が完成した。
全身鏡の前に立ち、鏡に映る美しく洗練された女性を見つめた。
以前の彼女にはまだ幼さが残っていたが、智則を産んでからは、落ち着きが増し、骨の髄まで染み込んだような優しさが漂うようになった。
少し自惚れかもしれないが、今この瞬間、自分の姿に魅了されているのは否定できなかった。
母親になることで、確かに生まれ変わったような気がした。
突然カーテンが開かれ、足音が近づいてきた。
鏡越しに、背後に立つ男の長身で凛とした姿が見えた。黒いスーツが彼の冷たく厳かな雰囲気を一層引き立て、端正な顔立ちには相変わらずの冷徹さと、どこか邪気が宿っていた。
江口侑樹が多重人格を患っていることを知る前は、ただ彼が変わった、見知らぬ人のようになったと感じていただけだった。
しかし今は...目の前のこの男が、かつて深く愛していた江口侑樹ではないことが、はっきりと分かった。
本来の人格の江口侑樹は心が温かかったが、第二人格の江口侑樹は、骨の髄まで冷たかった。
園田円香はゆっくりと振り向き、江口侑樹を見上げた。
二人はペアルックのドレスを着ていた。彼の胸元には洒落た赤いバラの刺繍が、彼女のドレスの裾には生き生きと咲き誇る赤いバラが刺繍されていた。
赤いバラは、熱い愛を象徴している。
江口侑樹は目を伏せ、彼女の視線と合わせた。その眼差しは平静で、むしろ冷たさを滲ませていた。
園田円香は思わず苦笑した。
彼女と第二人格の江口侑樹は、愛情すら演じることができないのだった。
彼女は本当に疑問に思った。第二人格の江口侑樹には、人を愛する能力があるのだろうか?
安藤吉実のことを深い愛情で見つめる様子も...見たことがないような気がした...