第422章 焦らないで〜

江口侑樹の唇が間近に迫った時、園田円香は手を彼の胸に当て、制止した。「焦らないで〜」

男は眉を上げ、声が非常に掠れていた。「どうした?まだ気が進まないのか?」

「違うわ」

園田円香の頬は真っ赤で、少し恥ずかしそうに言った。「ただ…先にお風呂に入りたいなって」

言葉と共に、彼をもう一度軽く押した。

江口侑樹は黒い瞳で彼女をじっと見つめ、彼女の女らしい仕草を見て、笑いながら彼女を解放した。「いいよ、行っておいで。待ってるから。どうせ…長い夜はこれからだ…」

園田円香は恥ずかしさのあまり、彼を非難するような目で見てから、振り返り、慌てた小兔のように、ぴょんぴょんと階段を上り、主寝室に駆け込んだ。

彼女は浴室に入り、ドアを閉め、鍵をかけた。

ドアに体を寄せ、外の気配を静かに聞いていた。男がまだ追ってきていないことを確認すると、彼女はそっと安堵のため息をついた。

同時に、顔に浮かんでいた恥じらいや可愛らしさの表情は、一瞬にして消え去り、代わりに現れたのは深刻な表情だった。

以前は江口侑樹が主人格なのか第二人格なのかはっきりしなかったが、先ほどの接し方で、彼がまだ第二人格であることを確信できた!

他の人なら騙されるかもしれないが、彼女は江口侑樹を何年も深く愛し、彼のすべてを理解していた。第二人格がどれほど主人格を模倣しようとしても、彼女はもう少しで騙されるところだった。

しかし、感覚は人を欺かない。

彼女は第二人格の江口侑樹に対して、何の心の動きも感じなかった。

今でも第二人格が体を支配しているということは、あの最終的な催眠術が成功したということか?

体内の主人格は完全に殺されてしまったのか?

違う。

一つは時間が合わない。

二つ目は、もし完全に殺されていたなら、第二人格の江口侑樹がわざわざ主人格のふりをして彼女と駆け引きする必要があるだろうか?

一瞬、園田円香の頭も混乱した。

彼女が唯一知っていることは、第二人格の江口侑樹はいつも自分勝手で、誰かが彼の邪魔をすれば、直接殺してしまうような人間だということだ。

今回、主人格のふりをして彼女と駆け引きするのは…一体何のため?

彼女には彼が欲しがるものがまだあるのだろうか?