言葉を聞いて、江口侑樹は顔を横に向け、テーブルの上の書類を見つめた。その後、彼はデスクに歩み寄り、その書類を手に取り、再び園田円香の前に戻ってきた。
彼は手を上げ、書類を彼女に差し出した。
園田円香は軽く眉を上げた。「どういう意味?」
署名したくないのか、それとも...本人が戻ってきたのに、まだ彼女に署名させたいのか?
彼女が署名すれば、彼の手に直接証拠を渡すことになる。結局、委任状は偽造されたものだから。
そうなると、彼の言う「主人格が戻ってきた」という話を疑わなければならなくなる...
彼女の考えを見透かしたかのように、江口侑樹は口角を少し上げ、怠そうな声で言った。「もう署名済みだ。持っていけ」
署名済み?
こんなに素直に?
園田円香は少し意外に思い、数秒間呆然としてから手を上げ、その書類を受け取った。
彼女は直接最後の署名欄を開いた。男の見慣れた署名が確かに記されており、江川慈善団体の赤い公印も押されていた。
間違いなく本物だ。
こんなにも断固として署名するなんて、もしかして...彼女の江口侑樹が本当に戻ってきたのか?
園田円香は顔を上げ、視線を再び男の顔に向けた。相変わらず極めて見慣れた顔立ちだが、この瞬間、彼女はすべての疑念と不信感を捨て去ることができなかった。
事態はまだあまりにも突然すぎた...
オフィスのドアが開き、染野早紀の声が響いた。「円香、署名できた?」
次の瞬間、染野早紀は江口侑樹を見て、表情が一変した。「このクソ男!なぜここにいるの?」
続いて、彼女は数歩で園田円香の側に駆け寄り、彼女の腕をつかんで緊張した様子で言った。「円香、大丈夫?」
こんな時に戻ってきて、しかもオフィスに現れるなんて、安藤吉実のためじゃないの?
江口侑樹は深い瞳で染野早紀を見つめ、薄い唇を開いて淡々と言った。「久しぶりだな、染野早紀」
「...」
染野早紀は数秒間呆然とし、すぐに目を見開いた。「あなた...」
第二人格の江口侑樹は、決して彼女の名前を呼ぶことはなかった。それどころか、最初から最後まで彼女を見る目は非常に疎遠だった。
確かに第二人格の江口侑樹と彼女は、実際には見知らぬ者同士だった。