おそらく彼女がまずこの質問をすると知っていたのだろう、江口侑樹の瞳には何の驚きもなかった。彼は口を開いたが、答えるのではなく問い返した。「ここで話したいのか?」
園田円香は一瞬固まり、ここが適切な会話の場所ではないことに気づいた。一度話し始めれば、山ほど話すことがあるのだから。
彼女は少し考えてから言った。「食事に行きましょう、食べながら話しましょう」
ちょうど今は、食事の時間でもあった。
「いいよ」
江口侑樹は応じると、すぐに自然に手を伸ばして園田円香の手を握った。
園田円香は反射的に振りほどこうとしたが、思いとどまり、彼に手を引かれるままに外へ向かった。
30分後、車はレストランの前に停まった。
園田円香が見上げると、以前よく来ていたレストランだった。ここには彼らの素敵な思い出がたくさんあった。
車を降り、二人は中に入った。
席に着くと、江口侑樹はメニューを彼女に渡した。「何が食べたい?」
園田円香は笑顔で「何でもいいわ、あなたが注文して」と言った。
江口侑樹は愛情を込めて指先で彼女の鼻先を軽くつつき、その後慣れた様子でウェイターに注文した。以前と同じように、すべて彼女の好物ばかりだった。
園田円香は指先でテーブルを軽く数回たたいた。
確かに彼女は意図的に試していたのだが、今のところ江口侑樹に怪しいところは見当たらなかった。
これらのことは、確かに本人格の江口侑樹だけが知っていることだった……
園田円香は水の入ったグラスを手に取り、一口飲んで、黒い瞳で男を見つめながら言った。「今なら、私の質問に答えてくれる?」
男性の深い瞳が彼女と合わさり、静かに答えた。「事故の時、君が危険な目に遭っているのを感じたんだ。でも彼は見て見ぬふりをした。その瞬間、私は強制的に束縛を破り、目覚めた」
来る途中、園田円香もさまざまな可能性を考えていた。この可能性も彼女は考えていた……
やはり彼女が入念に仕組んだあの事故が、彼を目覚めさせたのだ。
彼女は無意識にティーカップを握りしめながら、続けて尋ねた。「あなたが目覚めたのなら、なぜ私に会いに来た時は、まだ第二人格だったの?」
男はためらうことなく答えた。「私がちょうど目覚めたばかりで状態が不安定だったからだ。それに安藤吉実の催眠による抑制もあって、一時的にまた押し戻されてしまった」