如月志弘はこの結婚について特に意見はなかった。
如月廷真が幸せならそれでよかった。
しかし早坂明慧はまだ心の結び目を解くことができなかった。
蒼井家のこのような計算づくの行動を考えるだけで、怒りが収まらなかった。「そうは言っても、あの養女が何者かなんて誰にもわからないわ!人は見かけによらないものよ。」
ここまで言って、早坂明慧はため息をついた。「河内市にはこんなにたくさんの素敵な女の子がいるのに、廷真はどうしてあんな田舎娘に目をつけたのかしら?」
如月志弘は立ち上がり、早坂明慧の肩に手を置いてソファに座り、笑いながら言った。「子や孫には子や孫の幸せがあるさ。君はあまり心配しすぎないほうがいい。」
早坂明慧は再びため息をついた。「廷真は他の人より辛い経験をしてきたのよ。誰かに騙されるなんて見たくないわ。」
他人が見える事も見えない事も、如月廷真はほとんど経験してきた。
早坂明慧は続けて言った。「あの養女に策略がなければ、どうして廷真があそこまで心酔するのかしら?」
如月志弘は早坂明慧の肩をマッサージしながら、「廷真に時間をあげよう。時が経てば人の本性が分かる。時間が経てば、自然と蒼井華和の本性が見えてくるさ。」
早坂明慧は目を閉じ、何を考えているのか分からないまま、しばらくして「そうなればいいけど。」と一言だけ言った。
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北橋高校。
六組。
橘忻乃は蒼井華和の席の前に来て、「蒼井美人。」
「うん。」蒼井華和は少し顔を上げた。
橘忻乃は一枚の紙を蒼井華和に渡し、「蒼井美人、これは私たちの学校のバイオリンコンクールの参加者リストよ。見てみて。グループも作ったから、QRコードを読み取って入れるわ。何かあったら、グループで通知があるわ。」
「わかった。」蒼井華和はリストを受け取り、携帯を取り出してQRコードを読み取った。
午後の最後の授業は体育だった。
体育教師が皆をグラウンド一周走らせた後は自由時間となった。
男子はバスケットボールをし、女子たちはアイドルや化粧品の話で盛り上がっていた。
橘忻乃は蒼井華和の側に来て、「蒼井美人、私携帯忘れちゃったの。ちょっとゲームさせてもらってもいい?」
蒼井華和は頷いて携帯を橘忻乃に渡し、「好きなゲームをダウンロードして。」