彼は自分の仕事を愛していた。
いつでも、どこでも、仕事や同僚が彼を必要とする時、彼は躊躇なく応じた。
葉山雄大は蒼井邸の小庭園を見つめながら、表面は落ち着いているように見えたが、内心は激しく動揺していた。
小庭園と呼ばれてはいるものの、二反ほどの広さがあり、至る所で庭師が植物の手入れをしていた。初秋の時期で、赤いバラが風に揺れていた。
そよ風が吹き、花の香りが漂ってきた。
特に良い香りだった。
もし彼女が蒼井家に嫁ぐことができれば、この庭園の女主人となり、蒼井智輝の全てが彼女のものとなる。
蒼井家の使用人たちも、彼女を奥様と呼んで敬意を表するだろう。
そう考えると、葉山雄大の心臓の鼓動が速くなった。
蒼井智輝に出会えたのは、なんという幸運だろうか。
彼女は蒼井智輝をしっかりと掴んでおかなければならない。他の女性に機会を与えてはいけない。
葉山雄大は口角を上げ、足早に歩み寄って蒼井智輝の手を握った。
「どうしたの?」蒼井智輝が振り返った。
葉山雄大は笑いながら首を振り、「何でもないの。ただ、おじさまとおばさま、それに大婆様が私のことを気に入ってくれるかちょっと心配で」
蒼井智輝は携帯をしまい、いつものように眼鏡を直しながら、「私の知る限り、大丈夫なはずだよ」
「はずだって何よ?」葉山雄大は言った。「絶対って言えないの?」
蒼井智輝は少し考えて、「統計的に見て、百パーセントという状況はありえない。父と母は問題ないと思うけど、祖母は...何とも言えないな」
葉山雄大は蒼井大婆様の印象を思い返した。
優しそうなおばあさまで、話すときはいつも笑顔を浮かべていた。
以前、蒼井智輝から聞いた話では、蒼井大婆様はずっと彼に彼女を見つけるよう催促していたそうだ。今やっと蒼井智輝が彼女を連れてきたのだから、蒼井大婆様が気に入らない理由はないはずだ。
「他の女の子を家に連れてきたことある?」
「ない」蒼井智輝は首を振った。「君が初めてだよ」
「本当?」葉山雄大は尋ねた。
「本当だよ」
それを聞いて、葉山雄大の顔に幸せな笑みが浮かんだ。
「智輝」
そのとき、春日吉珠が近づいてきた。
「母さん」蒼井智輝が振り返った。
葉山雄大も礼儀正しく挨拶した。「おばさま」
春日吉珠は笑顔で頷いた。「葉山さん、お昼はお腹いっぱいになりました?」