帝都サークルの大物以外に、秋川菊野は他の人物を思いつかなかった。
夏目岳陽はため息をつき、「その可能性もないわけではない。まずは荷物をまとめよう。できれば今夜のうちに出国したほうがいい。無理なら、母子二人で一時的に身を隠すしかない」
秋川菊野も事態の深刻さを悟り、頷いて、すぐに二階へ荷物をまとめに行った。
夏目家の資金は全て銀行にあった。
手持ちの現金は多くなかった。
しかし、装飾品なども含めれば、出国には何の問題もなかった。
母娘は荷物をまとめ、パスポートを持って、夜のうちに空港へ向かい、最も早いU国行きの便を購入した。
......
翌日、ニュースには夏目グループの破産宣告が報じられた。
創業者の夏目岳陽は粉ミルク汚染事件により、投獄された。
そして夏目光彦も証拠が揃った状態で逮捕され、裁判所での審理を待つことになった。
ここに至って。
被害者の家族は、ついに朝日を迎えることができた。
同時に、彼らはある言葉を信じるようになった。
正義は遅れてくることはあっても、決して欠けることはない。
夏目家の突然の転落は、業界関係者にも大きな衝撃を与えた。
結局のところ、夏目家は河内市の百年の名家だった。
夏目家は息子の事件さえも揉み消せるほどの権力を持っていたのだ。
しかし今。
夏目光彦の過去の事件が再び掘り起こされ、夏目グループ全体が連座して影響を受けたことは、背後にいる大物の力の大きさを物語っていた。
そしてもう一つ最も重要な理由がある。
なぜ大物は夏目グループを潰そうとしたのか?
夏目グループは誰の逆鱗に触れたのか?
一時、誰もが不安に駆られ、知らぬ間にこの闇に潜む大物の怒りを買うことを恐れた。
特に日頃から夏目岳陽と親しかった人々は。
須藤氏グループ。
須藤悠翔はオフィスに座っていた。
そのとき、オフィスのドアが外から開かれた。
「時雨越」
入ってきたのは他でもない、若松岳登だった。
若松岳登は私生児で、河内市での評判は芳しくなかったが、実力は確かにあった。
須藤悠翔は決して人の言うがままに従う人間ではなかった。
彼は実力のある人間とだけ付き合った。
「今日はどうしてここに?」須藤悠翔は顔を上げた。
若松岳登は続けて言った:「夏目家のことを知っているか?」
須藤悠翔は頷いた。