嶽本登志は薬を早乙女恵子に渡して、「まずは薬を飲んでください」と言った。
「はい」恵子は茶碗を受け取り、中の漢方薬を一気に飲み干した。
その後、恵子は服を着替えて、夫と一緒にパーティーに参加した。
嶽本登志の友人たちは二人の状況を知っていたので、みんなで子供を養子に迎えることを勧めた。
恵子は「養子は実子とは違います」と言った。
それを聞いて、友人の妻は驚いて「自分たちで産むつもり?もう五十歳近いでしょう?」と言った。
恵子の目に寂しさが浮かんだ。「私は45歳です。登志も同じ年です」
「それでも産めるの?」
「はい」恵子は頷いて「私たちは名医を知っています。その方は必ず産めると言って、私もずっとその方の漢方薬を飲んでいます」
それを聞いて、友人の妻は呆れた様子で「お二人とも私の忠告を聞いてください。もうそんな年齢なんだから、あれこれ考えすぎないで。名医なんて詐欺師ですよ。実際、養子も実子も同じです。心を込めて育てれば良いんです。早く養子を迎えて、子供との絆を深めましょう。もう希望のないことに期待を寄せるのはやめましょう」
45歳にもなって、まだ子供を産む夢を見ているなんて。
人に笑われるだけだ。
一人っ子を失うことは、それだけでも辛いことなのに、この言葉は傷口に塩を塗るようなものだった。
恵子の顔が徐々に青ざめていった。「違います。私たちの知っている名医は、本当に腕が良いんです。私たちを騙したりしません」
「それは慰めているだけよ!医者としての倫理に反していますね。傷つけたくないからって、そんな嘘で人を騙すなんて!」友人の妻は続けた。「もともと妊娠しにくい体質なのに、今はこんな年齢で、妊娠なんてそう簡単にできるわけないでしょう!あなたの言う名医が本当にそんなに凄いなら、とっくに世界中に名が知れ渡っているはずよ!」
恵子の心の中の最後の防衛線が完全に崩れ去った。
彼女は感情を必死に抑えた。
そのとき、嶽本登志の友人が戻ってきて、妻の腕を掴んで引っ張った。「何を言っているんだ!話せないなら黙っていろ!」
そう言って、嶽本登志の方を見た。「すみません、妻は性格がこうなんです。彼女の言葉は気にしないでください」
嶽本登志は大丈夫だと笑って答えた。
誰も彼の心の痛みを知らなかった。
帰り道、嶽本登志は恵子を慰め続けた。