蒼井華和は榊原執事の方を見て、「執事のおじいさま、ちょっと待ってください」と言った。
「他に何かご用でしょうか?」
おそらく蒼井紫苑が彼の前で存在感を示しすぎたせいで、榊原執事はこの新しく戻ってきたお嬢様に対して特別な好感を持っていなかった。
蒼井華和に対しては、いつも公平に接していた。
しかし蒼井紫苑に対しては、まるで実の祖父のように優しかった。
蒼井華和は続けて言った。「あなたの咳は長年続いているのではありませんか?」
榊原執事は一瞬驚き、そして蒼井華和を見る目に驚きの色が浮かんだ。
榊原執事が反応する前に、蒼井華和の声が再び響いた。「あなたの咳は昼間は少し良くなりますが、夜になると悪化して、多くの場合眠れなくなるのではありませんか?」
その通り!
まさにその通り!
蒼井華和の言う通りだった。
榊原執事は蒼井華和を見て、「お嬢様、どうして、どうしてそれがお分かりになったのですか?」
「中医学では望聞問切を重視します。私は少しだけ心得があるので」と言って、蒼井華和は一旦言葉を切り、続けて「執事のおじいさま、少々お待ちください。ちょうど症状に合う薬を持っていますので、取ってまいります」
言い終わると、蒼井華和は部屋の中へ向かった。
しばらくして、彼女は寝室から出てきて、青い薬を執事に渡した。「はい、この薬は一日一回、就寝前に服用してください。だいたい三日で効果が出ます」
「ありがとうございます、お嬢様」と榊原執事は言った。
「どういたしまして」
榊原執事はこの件をそれほど重要視していなかった。
一つには、蒼井華和が渡した薬に効果があるとは思えなかった。
二つ目に、蒼井華和はあまりにも若すぎた。
そして、蒼井華和のようなお嬢様は普段使用人を人とも思っていないので、もしかしたら自分を弄んでいるだけかもしれないと考えた。
しかし夜になって咳で眠れなくなった時、榊原執事は蒼井華和からもらった薬を取り出した。
試してみよう!
もしかしたら本当に効くかもしれない!
毒殺されなければそれでいい。
この時点では、藁にもすがる思いだった!
妻の早乙女梅は榊原執事が薬を飲むのを見て、興味深そうに尋ねた。「それは何の薬?ラベルもついていないけど?」
「蒼井家のお嬢様からいただいたものです」と榊原執事は答えた。