蒼井真緒は腹に一杯の怒りを抱えていた。
今日は榊原社長に会いに来たのだ。
静園さんがこちらにオフィスビルを持っていると聞いて、運試しに来てみたが、静園さんには会えず、あのクズに会ってしまった。
まったく縁起が悪い。
「真緒」
そのとき、榊原社長の声が空気の中に響いた。
「社長」と聞いて、蒼井真緒はすぐに作り笑いを浮かべ、榊原社長の側に寄って腕を組んだ。
榊原社長は今年六十歳。
顔は油ぎって、ビール腹を突き出している。
彼を見るたびに、蒼井真緒は吐き気を催した。特に自分の初めてを彼に捧げたことを思い出すと、吐き気を抑えることができなかった。
でも今の彼女には他に選択肢がなかった。
蒼井龍は蒼井グループを再建するための資金が必要だった。
榊原社長以外に、頼れる人はいなかった。