蒼井真緒は腹に一杯の怒りを抱えていた。
今日は榊原社長に会いに来たのだ。
静園さんがこちらにオフィスビルを持っていると聞いて、運試しに来てみたが、静園さんには会えず、あのクズに会ってしまった。
まったく縁起が悪い。
「真緒」
そのとき、榊原社長の声が空気の中に響いた。
「社長」と聞いて、蒼井真緒はすぐに作り笑いを浮かべ、榊原社長の側に寄って腕を組んだ。
榊原社長は今年六十歳。
顔は油ぎって、ビール腹を突き出している。
彼を見るたびに、蒼井真緒は吐き気を催した。特に自分の初めてを彼に捧げたことを思い出すと、吐き気を抑えることができなかった。
でも今の彼女には他に選択肢がなかった。
蒼井龍は蒼井グループを再建するための資金が必要だった。
榊原社長以外に、頼れる人はいなかった。
榊原社長という船に乗ってから。
彼らは高級住宅街に戻ることができた。
少なくとも、もう狭いアパートに住む必要はなかった。
今や、蒼井家は寂しく、まだ榊原社長の助けが必要で、蒼井真緒は吐き気を我慢するしかなかった。
榊原社長は蒼井真緒の手を軽く叩いて、「会議があるから、先に帰っていてくれ。夜は私を待っていてくれ」
「はい」蒼井真緒は頷いた。
蒼井真緒を車に乗せると、榊原社長はオフィスビルに戻った。
一方。
使用人が蒼井華和の部屋のドアをノックした。「お嬢様、下に宅配便が来ています。とても重要な物だそうで、ご本人の署名が必要とのことです」
「分かった」蒼井華和は返事をし、パソコンを閉じて階下に向かった。
配達員は玄関ホールに立っていた。
通常、一般の宅配便は蒼井屋敷に入ることはできない。
しかし帝王便には特別な権限があった。
帝王便の社員は全員専門的な訓練を受けており、運ぶものは全て貴重品で、配送料が高額なだけでなく、本物の銃も携帯している。
「こんにちは」配達員は身長180センチで、かっこいい服装をし、白い手袋をはめていた。「蒼井さんでいらっしゃいますか?」
「はい、私です」蒼井華和は軽く頷いた。
配達員は手にした小箱を彼女に渡した。「中身をご確認ください」
「結構です。ありがとうございます」蒼井華和は伝票にサインをした。
「良い日曜日をお過ごしください」
配達員は受領書を受け取り、立ち去った。