このブラックカードは彼女にとって見慣れないものではなかった。
それはブルースター銀行のブラックカードだった。
ブルースター銀行は世界十大銀行の一つで、ブラックカードの発行には一つの基準しかなかった。
それは、カード内に三千億の資金を保有していることだった。
つまり。
篠崎澪が蒼井華和に渡したのは単なるカードではなく、巨額の資金だった。
一般人が一生かかっても手の届かない巨額の資金。
自分の月々のたった百万円の小遣いを思うと、蒼井紫苑の口元には嘲笑の弧が浮かんだ。
普段、彼女が気に入った限定バッグは八、九千万円もする。
百万円の小遣いなんて足りるはずがない!
でも小遣いが足りないと言い出すたびに、蒼井修誠は質素倹約の話を持ち出すのだった。
倹約しなければならないと。
他人と比べてはいけないと。